第26話 お帰りボックス

 ガッパ爺の作戦はおおむねこうである。


 まず、池の底にまつられている“イザナギの勾玉まがたま”を“とじこめタンス”に封印してジャングルに変えているその力を遮断する。


 次に、ワニやピラニアなどの生き物は“お帰りボックス”を使って本来の生息地に帰ってもらう。


 熱帯の草木は“喰い喰いペリカンのリンカ様”に一掃してもらう。


 そして最後に“イザナギの勾玉”と“清々の水ガメの魚達”を戻して、おたのし池の環境を元の状態に戻す。


 かくして、おたのし池は河童も住める日本古来の池に戻りました!


 めでたし~~♪ めでたし~~♪


「まぁ……ザッと、こんな作戦じゃ!」


 本当にザッとした作戦に、拍子が抜けた泰平である。

 まだ、若いだけに血気盛んな作戦を期待していたようだ。

 しかし、自分がこの中で一番弱い生き物――人間である事を忘れている。


「だから、トレーラーの奥に“お帰りボックス”が沢山置いてあったのかぁ~」


 とじこめタンスを運び出す時、邪魔で仕方なかった事を思い出した。


「ところで“お帰りボックス”って、何よ?」


 この手の仕事が初めての雪ん娘には、マイナーな妖怪アイテムは知らないようである。


「いいかい雪ちゃん♪ “お帰りボックス”は、引越し先をどうしても気にいらなかった場合、その箱に入ると元々住んでいた場所に帰れるんだ。あやかし引越しセンターの“クーリングオフサービス”ってとこかな」

 得意満面で説明をする泰平である。


「ありがとう♪ 泰平のくせに、たまには役に立つじゃない」


 憎まれ口をきく雪ん娘。やはり素直になれない年頃である。


「作戦は大体分かったドン……そんなに簡単に行くんドンか?」


 あまりにザットした作戦に、輪入道もチョット不安顔で尋ねた。


「大丈夫じゃ! このメンバーなら問題なかろうて」


「僕たち全員に……何らかの役割があるんだね!」

 

 作戦の説明が簡単すぎて、自分の出番は無いのかな? と思っていた泰平にも少しだけ気合が注入された。


「全員に活躍してもらうからの! チームワークを忘れるな!」


 更にガッパ爺が全員に気合を注入した。


「先ず“イザナギの勾玉”湖底のほこらまで取りに行く役目は、当然……河童くんじゃ……頼んだぞ!」


「はい! 絶対に取ってくるゲロ~」


 河童の五郎だけは最初から疑うこともなく、やる気満々だ。


「ワニや、ピラニアがウヨウヨいるドンに……河童だけで行かせて大丈夫ドンか? 心配ドンな~~」


 根は優しい輪入道が心配している。

 顔と言葉のアンマッチに雪ん娘が、クスッ♪と笑った。


「だから全員の協力が必要なんじゃ! こうして暗くなるまで待ったのも作戦じゃからの」


 ガッパ爺、得意満面である。

 なんだか楽しんでいるようにも見える。

 河童の五郎は更に身を乗り出した。甲羅が肩から下にずり落ちそうだ。


「次に……輪入道!」


「ほい来たドン! なんでもドン!」


「お主は、池のはしで車輪から炎を吹いて、水面の近くでユラユラと揺れてくれ」


「火をつけて揺れる……それだけでいいのかドン?」


 もうちょっと過激な役が欲しそうな輪入道。

 日本一の炎の使い手と自慢している腕前を見せたかったようだ。


「とても、大事な役じゃ! 日本でも、お主しかできん難しい役じゃ!」


 人を……いや、妖怪を乗せるのが上手いガッパ爺である。この腕前は、間違いなく日本一だ。


「……それが、何に役立つドン?」


「輪入道の炎に誘われてピラニアやピラルクの魚達が集まってくる。そう……明かりに集まる魚の習性を利用するのじゃ……」


「なるゲロね……僕も明かりを見ると、引き寄せられるゲロ」


 案外と河童は単純な妖怪である。


「しかし、大事なのはその後じゃ。集まった奴らをそこから逃がさない事! 輪入道……分かるの?」


「なるほど分かった~任せろドン! 逃げる奴はワシが“車輪トルネード”で巻き上げて戻してやるドン!」


(輪入道さん……“車輪トルネード”なんて妖力を持ってたかな~? また、勢いで適当な事を……)

 雪ん娘が、頼もしげに輪入道を見つめるのが少し悔しい泰平だった。


「質問~!」泰平が手を挙げた。


「なによ泰平! あんたは人間なんだから、無理しちゃダメなんだからね」


 間髪入れずに雪ん娘が、釘を刺した。


「雪ん娘……今回は泰平も頑張ってるんじゃ……心配なのは分かるがの♪」


「そうゲロよ! 泰平くんのおかげで未来に希望が持てるゲロよ……え? 心配?」


「な……なにを言うのよガッパ爺! 私は泰平なんか心配してないわよ……バカ泰平! 早く質問しなさいよ!」

 

 頬を赤らめて下を向く雪ん娘。

 泰平は、なぜ雪ん娘に怒られたのか理解できていない。

 大人になったり、子供のままだったり多感な年頃である。


「それじゃ……ガッパ爺……ワニは、魚じゃなく爬虫類だから、炎には魅せられないんじゃ?」


 泰平にしては、なかなか鋭い指摘だ。

(雪ちゃん見てくれたかな? 感心してくれたかな~)

 チラッ♪ と、雪ん娘を見たが――うつむいたまま、まったく無視している。

 努力がなかなか報われない。

 頑張れ男の子!

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