第25話 作戦会議

「フルスロットルで飛ばしたが、いつの間にか薄暗くなったドン! カラスにぶつかりそうで……危ないのなんのドン」


 まだ、ブスッブスッ! と青白い炎を車輪から吹きながら輪入道が丘に降り立った。


「輪入道さん……雪ちゃんを乗せているのに危ない運転しないでくださいよ~」


「あはは~♪ 真っ先に女の心配とは……お前も男になってきたドンな~」


 輪入道に駆け寄り、荷台に居るはずの雪ん娘を捜す泰平。

 その姿を眺めながらちゃかす輪入道である。


「あ! 居た、居た♪ 雪ちゃん~♪ 大変だったね~」


 輪入道の後ろにしがみついていた雪ん娘に、紳士っぽく右手を差し伸ばす泰平。


「ありがとう♪ でも、輪入道さんの運転はスリルがあって、とっても楽しかったわよ♪」


 差し伸べた泰平の手に気づかなかったのか、無視したのか、ピョン~と飛び上がると、輪入道の頭を軽々と飛び越え一回転して地面に着地した。

 素晴らしい運動神経である。


「え? ……」


 泰平は、空を切った形になった右手を折り曲げて、照れ臭そうに頭をかいた。

 まだまだ恋愛不慣れな中学生である。


「ガッパ爺~♪ おまたせ……私の力を借りたいなんて目が高いわね」


 雪女族は、女流社会のため高慢な者が多いが、性根は優しい妖怪である。

 ただ、雪ん娘は半分人間の血が混じっているため、高慢ではある事は確かだが――優しいかどうかは、その態度を見る限りでは定かでない。


「夏休みとはいえ、夏季講習で忙し時にすまんの~」


「私は、泰平と違って、ココが優秀だから」


 チラリと泰平を見ると、頭を指さしながら憎まれ口を叩いた。


「その通りじゃ! まぁ、今回の仕事は、ちょっとだけ危ないかも知れんが、雪ん娘ならうまくやるじゃろ」


「その通りとは何だよ~」すねる泰平。


「まかせといて♪ こんな『危険かも~』って仕事したかったのよね。妖怪の本領を発揮してあげるわ……なによ泰平? その変な顔は~」


 親指を立てガッパ爺にウインクする雪ん娘に、何か言いたそうな泰平である。

 ガッパ爺は、そんな二人のやり取りを孫を見るような眼差しで見ていた。


「さてと……みな揃ったところで、作戦会議を始めるぞ~!」


「ワクワクするゲロね~♪」


「ガッパ爺に任せたら心配ないドン! 安心しろドン」


「楽しそうね♪ 私~頑張っちゃう♪ 何でも言いつけてね」


「雪ちゃんは、俺が守るから……」


 泰平だけが、誰にも聞こえないような小さな声で言った。

 恥ずかしがる年頃である。


「今から『おたのし池』を取り戻す作戦を話す……しばらく黙って聞くのじゃぞ」


「黙って聞けるゲロかな~?」


「五郎さん……頑張って池を取り戻しましょうね!」


「こら! 暗くなってきたから、邪魔をしないで黙って聞くドン」


「…………」


 全員が静かになったのを確認すると、ガッパ爺は話し始めた。


 ゴックン! 泰平の生唾を飲み込む音が雪ん娘には聞こえた。

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