第24話 喰い喰いペリカン
「……とりあえず、どうしたらいいんだよ?」
自慢したり、気遣ったりと――妙に舞い上がっているガッパ爺の態度を不審に思う泰平。
「とりあえず? そうじゃ……はやく喰い喰いペリカン様をお出しせんか~」
「ほんとうに、大丈夫なんだろうね?」
泰平はためらいながらもタンスのドアを開けた。
「クワッ~♪ クワ~~~♪」
黄色いフワフワした羽毛に包まれた、泰平より少し大きい鳥が飛び出してきた。
その姿は、ペリカンというより高貴さが漂う“鶴”に近かった。
喰い喰いペリカンは辺りをグルリと見渡し――バサッ! 羽を大きく広げると泰平を見下ろして一声鳴いた。
「クワ~~~♪」
その勢いに驚いた泰平は、足を滑らせ勢いよく尻もちをついてしまった。
「痛い~! 同じ個所をまた打った~」
その姿を見ていた“喰い喰いペリカン”がほほ笑んだ。
鳥がほほ笑む? そんな事が? そんな疑問が浮かぶ間もなく、泰平は優しいオーラに包まれ――痛みを忘れた。いや、痛みが消えた!
「すいません! このバカ者が失礼な事を……どうぞトレーラーから外に出てくだされ」
ガッパ爺の妖力で引き起こされた泰平は、操り人形のように手を差し出さされた。
「こら! 河童くんもお手伝いせんか……」
いつのまにか隣に来ていた河童の五郎にも指示をした。
二人は“喰い喰いペリカン“が差し出す羽の先を握るとのトレーラーからゆっくり外に案内をした。
「すごいゲロ~! フワフワしてメッチャ気持ちいい羽毛だゲロ~」
五郎は“喰い喰いペリカン”の羽毛の気持ちよさにビックリした。
喰い喰いペリカンは嬉しかったのか「クワッ~♪ クワッ♪ ククワッ♪」鳴いた。
「お世辞で無いゲロよ……本当ゲロ♪ 綺麗でフワフワとして気持ちよい羽毛ゲロ♪ 良い香りもするゲロ~」
水かきのついた手を左右に振りながら言った。緊張で声が裏返っている。
「五郎さん……言葉が分かるんですか?」
妖怪同士とはいえ、鳴き声でも理解しあえるとは! 更なる妖怪の奥深さに触れた気分だった。
感動している泰平にガッパ爺が教えてくれた。
「河童族は、妖怪通訳を
ここでのアルバイトが、もう一年を超えているのに妖怪の世界はまだまだ分からないことだらけだと――一応に感心をする泰平である。
「五郎さん……ペリカンさんに、ここで待っていてもらうように言ってください。その間に、僕たちはタンスをトレーラーから出しましょう」
「“リンカ様”だゲロ~」
「はい? リンカ様……何ですか?」
いきなりの意味不明な河童の五郎の言動に戸惑ってしまった。
時々妖怪は主語を飛ばして話すに事がある。
妖怪同士は、人間には無いテレパシーの様な能力で情報を共有しているからかもしれない。
「喰い喰いペリカンさん……名前が“リンカ”ゲロ。女性だそうでゲロ」
「え! リンカ? すいません! 女性だと気づきませんでした。驚いたり、手を触ったりしてしまって……『セクハラだ~』なんてセンターに訴えないでくださいね」
コンパライアンスについては妖怪世界でも厳しくなっていた。
泰平も、毎日のようにガッパ爺に「バカモノ~!」と怒られながら講習を受けていた。それは“パワハラ”にならないのかと心で思っている。
しかし、人型妖怪と違い、動物型妖怪は見た目で性別の判断がつきにくいから対応が難しいのも事実である。
かの有名な“ぬりかべ”や“一反木綿”のように固形物系の妖怪の性別はもっと分かりにくい。分かったところで大差はないけど。
「よいしょ♪ ほいしょ♪ よっこらせ~~♪ やっこらせ~♪」
泰平と五郎は、力を合わせて“とじこめタンス”をトレーラーの外まで運び出した。
(妖怪との共同作業は掛け声が古くて……タイミングが合わせにくいなぁ~)
泰平はいつも思っているが口には出していない。
妖怪が、実は意外とナイーブな性格だと知ってるからである。
その頃、輪入道が雪ん娘を連れて帰ってきた。
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