第21話 秘策

「ガッパ爺様……教えてゲロ?」

 

“イザナギの勾玉まがたま”の力を知った河童の五郎は、いたたまれない気持ちに打ちひしがれていた。


「……お主の聞きたい事は、大体分かるが……」


「河童パワーが落ちたのは、やはり『イザナギの勾玉まがたま』に関係があるゲロね?」


 池の仲間を護れなかった理由がぼんやりと理解でき、悔しさを抑えきれないのだ。


「水の精霊である河童族は、池や川に棲むこの国古来からの動物や植物、昆虫達から少しずつ力を分けてもらって、生きてきたからの……」


「やはり……仲間が減ってしまったから……弱くなったゲロね?」


「そういうことじゃ……」


 池を護りきれなかったことが自身を弱くしてしまった。

 五郎は、その非情な現実を受け止めなければならなかった。


「ガッパ爺よ~! それでは河童がかわいそうすぎるドン。何とかならドンか?」


 優しさが甲羅を背負ったような五郎が好きになった輪入道。

 彼を助けたくて仕方ないようだ。

 妖怪の世界で、一番大切なのは義理人情だと思っている。


「解決策よな……そうじゃの~」


 ガッパ爺が少しだけ厳しい顔になった。


「無いこともない……が! 危険をともなうぞ」


「え! あるゲロか? 本当ゲロ?」


「やっぱり~あるドンな! さすが~ガッパ爺ドン」


 輪入道と五郎が、頬をり寄せて喜んでいる。

 妖怪同士が喜びを分かち合う時の儀式である。

 チョット気持ち悪い時もある――今のように。


「その前に、河童くんには言っておかにゃならんことがあるのじゃが……」


 頬ずりしようと、にじり寄ってくる輪入道の車輪を、両手で必死にさえぎる泰平を、見上げながらガッパ爺が言った。


「なんでも言ってゲロ!」


「ワシらは『引越しをさせて欲しい』という依頼を受けてここに来た……」


「わかってますゲロ! 僕が頼んだゲロ……」


「これからワシが提案することは“引越し”じゃなく……河童くんが、また、みんなと一緒に住めるように、ここの環境を元に戻す作戦なんじゃ」


 泰平も輪入道も驚いた。

 しかし一番驚いたのは河童の五郎だった事は言うまでもない。


 水かきを目いっぱい広げると、飛び跳ねながら叫んだ。


「ほんとゲロか? 本当に……ここが昔のおたのし池に……」


「かなりの危険は伴うが、できんことはない!」


 ガッパ爺は大きくうなずいた。


「お願いゲロ! お願いしますゲロ! お願いしま……」


 瞳に溢れんばかりの涙を溜めてガッパ爺に抱きついた。

 それは、ガッパ爺を着ている泰平も一緒に抱きしめている事に気づいていない。


「五郎さん! 痛い! 強すぎですよ! 僕は人間ですから……もっと優しく~」


 加減のない河童の力は、泰平の腕の骨をきしませた。


「ごめんゲロ~! あまりうれしくて……」


 五郎は右手で涙をぬぐいながら、何度も、何度も頭をさげた。

 それでも顔は涙で濡れている。

 河童だけに――濡れた顔が、とっても似合っていた。

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