第19話 湖底の祠(ほこら)

「なるほど……河童くんの話で“おたのし池”が、何故こんな事態になったのか、大体わかってきたぞ」


 ガッパ爺が凛として張りのある声で言った。

 自分の推理に自信がある時のガッパ爺のトーンだと、泰平には分かった。


「さすがガッパ爺ドン! ワシは生き物が苦しんでいるのを見ると、どうしても助けたくなるんドン」


 今まで、何もしゃべらなかった輪入道が、いきなり口から火を吐いた。

 涙ぐんでいる――。

 五郎の話に感銘したようだ。妖怪は元来お人好しである。


「まて! まて! ……慌てるでない」


 ガッパ爺は、興奮して火をまき散らす輪入道を一旦静かにさせると、河童の五郎の方に振り返った。


「河童くん……ひとつ聞きたい事があるんじゃが?」


「ゲロ! 僕に分かる事なら、何でも質問してゲロ」


「この池の底……そうじゃのぉ~! 一番深い、湖底辺りに神様をまつていそうな“ほこら”がないかの?」


「ゲロ! ゲロ! 確かにあるゲロ~! 古い“ほこら”が池の底に祀られているゲロ」


「その中に何がまつられているか……知っているかの?」


「一応この池を護る妖怪ですゲロ。赴任ふにんした当時に一度だけ覗いたことがあるゲロ」


(赴任? 五郎さん……河童社会のサラリーマンなのかな? 赴任があるのなら、就職や出張とかもかあるんだろうか?)


 妖怪の世界は奥が深いと密かに感心する泰平だった。

 まだ彼は中学二年生である。

 今後、大人の世界を知り、神主の世界を知り、そして――妖怪の世界をどっぷり知ってしまったら――彼は、どんな人生を送るのだろう。


「で! そのほこらには、何が入っておった?」


 ガッパ爺は好奇心旺盛な泰平の妄想に気づかないふりをして、五郎に訪ねた。


「中には……石が入っていたゲロ。ボーリングの玉くらいの大きさの白い石が置いてあるだけだったゲロ」


「石ぃ~? その辺にゴロゴロ転がっている……あの石ドンか?」


 輪入道がすっとんきょうな声を発した。


「何の変哲もない……普通の石コロだったゲロ」


“秘宝の剣”くらいは出てくるのかと期待して、身を乗り出していた泰平と輪入道は肩透かしをくらい、お互いに顔を見合わせた。


「実は、その石からは凄いパワーが出てるドン……とか?」

 あきらめきれない輪入道である。


「調べてみたけど何の力も伝わってこなかったゲロ! これでも僕は妖怪だから……そういうパワーがあれば気づくはずゲロよ~」


 妖怪としての能力を軽く見られたと思ったのか、少しだけプライドが傷ついた河童の五郎である。


「それでいい! うん! それで良い……それでこそじゃ!」


 確信したようにガッパ爺が深くうなずく度に、やっぱり泰平も一緒にうなずかされている。

 

「何がどういいドン? 何もない普通の石だって……」


「仕方ないのぉ~。今からワシの言うことをよく聞くんじゃぞ」


 ガッパ爺は、戸惑う泰平たちをしり目にコホン! 一回軽く咳をすると、ほこらまつられていた石の説明を始めた。

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