第17話 楽園の変貌

 おたのし池は、古来よりの日本の情緒を引き継いだ長閑のどかな池だった。

 フナやコイ達が悠々と泳ぎ回り、ゲンゴロウやミズスマシ、ヤゴやタガメが遊び、岸辺には四季折々の花が咲き乱れる楽園だった。


“おたのし池”のある“おたのし森”も、地元では“霊験あらたか”な場所として人々が滅多に立ち入る場所ではなかった。


 それが近年湧き上がった登山ブームによって怖いもの知らずの若者達が時々入山するようになってしまった。


 若者たちは“おたのし森”を探索し、その情報をSNSで流した。


 中でも、陽光を浴び、光り輝く水面と深緑のコントラストが美しい“おたのし池”は、人里離れた静寂せいじゃくな場所として、ある愛好家達に目をつけられた。

 それは“人目につきにくい池”の条件を探していた、心無い釣り人達だった。

 彼らは、ゲームフィシングの名のもとに、外来種で雑食の肉食性魚ブラックバスを“おたのし池”放流してしまった。


 次に、この池に目をつけたのは、自宅で飼えなくなったペットの捨て場所に困っていた薄情な飼い主たちだった。


 ワニ、アロワナ、ピラルク、ピラニア、カミツキガメやワニガメまで、大きくなりすぎて飼えなくなった、凶暴になって手におえなくなったペット達をこの池に運んできては捨ていったのだ。


 そんな人間達の悪行を、森の言霊や、妖怪達は見守るしかできなかった。

 この森の妖怪たちは、あまりにも優しすぎた。


 フナやゲンゴロウなど昔から、この池に住んでいた魚や昆虫たちは、デカくて頑丈で気性が荒い新しい住人達に襲われ、どんどん住み処を奪われていった。


 そんな中、おたのし池を護る河童の五郎は孤軍奮闘こぐんふんとう――頑張っていたのだが、凶暴なワニやピラニア、ワニガメなどが増えるにつれて、どうすることもできなくなってしまった。

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