第14話 不思議な力

「泰平くん無理だ~! 逃げ切れない! やられるゲロ~」

 河童の五郎は覚悟した。


 その瞬間だった――。

 五郎は、体がフワッと何かに包まれたような感覚を覚えた。


  ギュッン!


 水を切る鋭利な音が周辺に響くと同時に、二人は凄いスピードで前に進み始めた。


(なんだ~この速さは?)五郎は一瞬の出来事を理解出来なかった。


「何がおきているゲロ……僕は泳いでいないゲロ……」


 更にスピードは上がった。

 見る見るうちにピラニアの群生が遠ざかり、ついには小さな黒い点になり、視界から消えていった。


 安堵とともに、我が身に起こっていることが未だに信じられない五郎だった。


「そうだ! 泰平くん……泰平くん! 泰平くん? 大丈夫ゲロか?」


 背中の泰平に、再び声をかけた。返事がない。

 スピードに比例して押し寄せる水圧に耐えながら、首を伸ばし後ろを振り返った。


 泰平はしっかりと甲羅にしがみついてる。

 しかし、眠っているように目を閉じている。

 一応にホッとする河童の五郎だった。


「え? なに……背中?」


 ホッとしたのもつかの間、河童の妖力が背中に異様なパワーを感じ取った。


「泰平くん? 違うこの力は……妖怪?」


 戸惑う五郎。スピードは更に上がってきた。 

 

「このままでは、ヤバイ! とにかく……スピードを落とすよ。いいね~泰平くん!」


 やはり、返事は返ってこない。

 五郎は、足ヒレを開くとかかとを九十度に曲げて水圧のブレーキを掛けた。


 ガクガク~ガクッ~!


 足ひれにかかる水圧に耐える五郎。

 徐々にスピードが落ちてきた。

 同時に、何かに包み込まれていたような感覚と、妖怪のようなパワーも消え失せた。そして、泰平の重みが河童の五郎の甲羅にし掛かってきた。


「急に重たくなったゲロ……けど……体の自由も戻ってきたゲロ」


「プハッ~! プハッ~~!」


 眠っていたように静かだった泰平が急にせながら目を覚ました。

 大量の水を飲んで苦しそうだ。

 しばらく咳き込んでいたが、次第に大きな深呼吸に切り替えると、肺に空気をたっぷり取り込んだ。


「僕たち……助かったんですね?」


「うん……助かった……ゲロ」


「ありがとうございます! さすが水の守り神……河童ですね」


 息は荒いが、なんとか自分を取り戻した泰平は、安堵の表情を浮かべると、改めて五郎にお礼を言った。


「もう駄目かと思いました……ほんと凄いスピード! 河童の底力を見せてもらいました」


 自分の不注意で迷惑をかけたことを深く反省しながらも、今体験したことに興奮し始めている泰平である。


「僕も無我夢中で……でも、正直、何が何やら……ゲロ」


 河童の五郎は、とにかく助かった喜びで握手を求め右手を差し出してきた。

 しかし、その瞬間――泰平は河童の五郎の手を制した。

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