第11話 河童の五郎
なるほど、木の上に登ってみるとマングローブの枝を器用に編んだ丈夫な床に上に、四畳半ほどの生活空間が現れた。
「どこでもいいから……座ってゲロ」
座布団を求めるのは無理な状況である。
泰平は、比較的織り込んだ枝が盛り上がって座りやすそうな場所を見つけて腰を下ろした。
「はじめまして。
引越センターの名刺をリュックの中に入れたまま、木の根元に忘れてきてしまったことを思い出した泰平は、頭を掻きながら自己紹介をした。
「僕は、河童の五郎ゲロ。一応、おたのし池の“
「この池の主……ですか……よろしくお願いします」
誰に依頼されたんだろう? と考えながら頭を下げる泰平。
「こんな所に呼び出して、すいませゲロ……切羽詰まって……訳も分からず連絡してしまいましたゲロ」
泰平より深く頭を下げる河童の五郎。
(なるほど……山深い池や川に住む妖怪は礼儀正しいと、ガッパ爺から聞いていたが本当だな~)と妙なことに感心する泰平だった。
「気にしないでください。妖怪さんの依頼があっての当社ですから」
中学生が、いっぱしの社会人の営業挨拶が出来るようになったのも、人使いの荒いガッパ爺のおかげである。
「早速ですが……説明してもらえませんか? ハチャメチャすぎて……何がなにやら」
「僕自身、本当にここは日本か? と目を疑いたくなるゲロ」
「ですよね~! マングローブなんて初めて見ました」
「正直言って、何故こうなったのか……実は、全然分からないゲロ」
河童の五郎は重そうに背中の甲羅を左手で押し上げると、水かきの付いた右手をのばして泰平を手招きをした。
「
枝に足を取られ、よろけた泰平に手をさし伸ばすと、ポッカリと開いた三十センチ程の枝の隙間をクチバシで指した。
「あそこから覗くんですか?」
チョットだけ興味をそそられる隙間だった。
“この穴覗くべからず”と看板を掲げられていたら、覗いてしまうのは人間の性である。
泰平は嬉々として覗き込んだ。
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