第9話 ジャングル

「もうこんな所から変な植物が……」


 池から、まだ百メートル以上も離れているのに、地面は奇妙な植物に覆い尽くされ、泰平の行く手をはばんでいた。


「この植物は見たことがあるんだよな……何だったかな?」


 葉っぱの先が茎から左右に広がるように伸びていて、全体として孔雀が尾羽をおおぎに広げたような形をした植物だった。


「思い出した! これは孔雀シダじゃないか! しかし……どうして?」


 アナコンダが暴れる映画を観た時、ジャングルに繁っていた孔雀シダを思いだした。


「撮影はアマゾンの奥地だといっていたなぁ……」


 泰平は、先に見える“おたのし池”の周辺に目を凝らしてみた。

 確かに、そこに映る光景はジャングルの様子に似ていた。

 まだ成長過程ではあるが、こんもりとした木はマングローブのような気もする。


 泰平は、背負っているリュックを肩から下した。

 固く締め過ぎた絞り口に後悔しながらスマートホンを取り出した。


<もしもーし! 輪入道さん?>


 丘で待っている輪入道に連絡を取った。


<どうした? 河童には会えたドンか?>


<それどころじゃないですよ……まだ池に辿り着いていません>


<まだ? なにかあったドンか?>


 長く伸びた草におおわれてしまい、泰平の姿が見えなくなっていたのを心配していた。


<輪入道さんの予感が当たったようです。なんか変なんですよ>


<変……?>


<池の周辺がジャングルになっているんです!>


<なんじゃそりゃ? ワシも行ってやろうドン?>


<いや大丈夫です! ただ……ガッパ爺を連れて来てもらえませんか>


 このような理解に苦しむ怪奇な状況には、ガッパ爺の知恵を借りたほうがよさそうだと思ったようだ。


<確かにここの雰囲気は気になるドン! 直ぐに連れてくるから待ってろドン>


<お願いします~!>


<くれぐれも無茶をするんじゃないドン>


 電話が切れると同時に、青白い炎をクルクルとまといながら輪入道が上昇した。

 泰平は、輪入道が飛び立つのを軽く手を振って見送ると、再び歩きだした。

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