第4話 天下泰平
少年は、神社の境内にある社務所の重いドアをギシギシと
「じいちゃん! ただいまぁ~!」
靴を脱ぎながら社務所の奥に向かい、もう一度声をかけた。
返事が返ってこない。
「……あれ? ……じいちゃん?」
人の気配もない。
「……お祓いにでもいったかな?」
軽く祈る気持ちで一番奥の宮司部屋を覗いた。
やはり誰も居ない。
少年は小さくガッツポーズをすると、自分の部屋に駈込んだ。
急いで学生服を脱ぎ捨てると、そのまま玄関を飛び出して行った。
社務所の玄関を出て直ぐ右隣には、祠(ほこら)を模造した5坪程度の小さなプレハブハウスが建っていた。壁は迷彩色に塗られている。
神社の境内に溶け込むように建てられたプレハブには、不釣り合いに大きな窓があった。
その窓には、ピンクの水玉の可愛いカーテンがかかっていたが、今はしっかりと閉ざされている。
迷彩色の壁に、ピンクのカーテン。
このアンマッチが不気味な雰囲気を漂わせていた。なにより住人のセンスが不気味である。
少年は、窓の前で立ち止まると、背伸びをしてカーテンの隙間から中を覗き込んだ。
しかし、そこに誰も居ない事が分かり、軽く舌打ちをすると
さっきまで、あんなに気だるそうに歩いていたのに、今は早いのなんの――。
ただ、少年が走り抜ける遥か頭上の枝が、彼を追いかけるように大きく揺れ、青々とした葉っぱが渦を巻きながら一斉に千切れ飛んだ事を少年は気づいていなかった。
この少年――名前は「
中学二年の男の子である。
でも、友達は「
「そりゃ……普通はそうだろうなぁ~」と泰平自身も認めていた。
泰平は、街の人達が「あやかし神社」と呼ぶ、この「
彼は、爺ちゃんの後を継いで「あやかし神社」の神主になるであろう宿命を背負っている――と、言えば
ただ、そんな彼――。
普通の少年や神主見習いと違い、ちょっとだけ辛い過去があった。
それは、天牙神社で神主をしていた厳格な父親と、
まるで神隠しにでもあったように、痕跡もなく煙のように忽然と姿を消してしまった。
警察もしばらくは事件と失踪の両方から捜査をしてくれたのだが、結局いまだ未解決のままとなっている。
泰平が六歳の時である。
幼児が受け入れるには悲し過ぎる過去だった。
その事件以後、泰平は宮司の祖父と二人で生きてきたのだ。
しかし、彼は、持ち前のポジティブシンキングでそんな過去など、軽く乗り越えてスクスクと育った。
天下泰平――アダ名のごとく、呑気にのんびりと生きてきたのだ。
あの日までは――。
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