第3話 あやかし神社

 蛇の道は山頂に近づくにつれて、石を置いただけの安定感の無い石畳の道に変わっていった。

 その石畳も、またうねりながら頂に向ってクネクネと伸びている。


 少年は、相変わらずのんびりと登って行く。


 数分後――やっと頂上が見えてきた。


 少年が、山頂の手前にたどり着くと、そこには侵入者の行く手を阻むように、大きな石の階段が立ちはだかっていた。

 数えると、その階段は十三段あった。


 その石段の手前にも猫顔をかたどった、古ぼけた黄色い看板が立てかけてある。


【この階段は一気に駈け昇れ。そして、絶対に後ろを振り向いてはならない】


 少年は、横目でその看板を一瞥いちべつすると、フン! と鼻を鳴らして石段に足を掛けた。

 そして、やはり気だるそうに一段、一段休みながら登り始めた。

 時々振り向いては背を伸ばし、欠伸あくびまでしている――なにも起こらない。


 少年が石段を登り切ると、ふもとから見上げたのでは気づかない平地が運動場のようなに広がっていた。


 しかも、その一帯は鼻の奥をツンと刺激する雨上がりのようにリンと張った空気に包まれていた。


 少年が伸ばした腰を二度三度と叩いていると、不気味なことに、いずことなくから霧が流れ込んできて、すっぽりと彼を包み込んだ。


 最高に不気味なシチュエーションが整った。


 普通なら、ここで覚悟を決めなくてはならない!

 何故なら、この後、霧の向こうから怪しげで古ぼけた建物が、幻のようにうっすらと浮かび上がってくるからである。

 更に、その建物からかもし出される得体のしれない妖気が、どんな屈強な人間の肝も鷲づかみにし、恐怖とおののきを体験させるのである。


 確か――そうなる、はずだった――。


 しかし、少年は――違うようだ。


 彼は、何の躊躇ちゅうちょもなく古ぼけた建物の前まで歩み寄ると、グルッと周りを見渡し、大きな欠伸あくびをした。

 拍子抜けである。


 少年が辿りついたのは地獄の入り口でも、化け物の巣窟そうくつでもなかったようだ。


 そう、ここは知る人ぞ知る。知らない人は知らない――。


 あやかし公園の裏山に昔から建っている古ノいにしえのやしろ


 天牙神社あまがじんじゃ――だった。


 天牙神社がいつ建てられたのか? 

 由緒があるのか? 

 無いのか? それは全く知られていない。


 しかし、そんな事はどうでもよかった。

 この神社が【あやかし神社】と呼ばれ、比類なき奇天烈な神社である事は、神社マニアの間では知れ渡っていた。

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