二話 初期ステータス ①
異世界で生を受け、五年の月日が流れた。今日は佐藤 蒼波──アード・グラウラスの職業が決まる儀式の日だ。
この世界の人々の職業は、五歳の時に初期ステータスと共に決まる。初期ステータスと職業は関連性が全く無い。
初期ステータスが高くても村人にもなるし、初期ステータスが低くても勇者にもなる。
初期ステータスは、今までどのように暮らしてきたのかが反映されるが、職業にはそれがない。
むしろ、職業はあまり気にしなくてもいい。職業は特段その決められた職業にならなければならないといった決まりは無いからだ。
だから、今回アードが気にしているのは職業では無く、初期ステータスの方だ。
この世界に自分が転生した事は既に承知の事実。だが、アードには転生時に起きた女神や神との面会の記憶が全くと言っていい程無い。
もしかすると、面会していない可能性も大いにあるが、異世界転生で女神や神と面会するといったら十本指の中には入るイベント。だから、アードはその記憶が無いだけだと信じている。
「あーどくん? どうしたの? ぐあいわるいの?」
その可愛い声が空気を振動させながらアードの耳へと入ると、初期ステータスの事から意識が引き剥がされ、現実に引き戻される。
「……ん? どうした、ソフィナ」
「ううん。なんでもないよ」
「そうか? ならいいけど」
アードを現実に引き戻したのはソフィナ・エルネスだ。彼と同い年で、家が近所で生まれて早いうちから交流がある、いわゆる幼馴染というやつだ。
ソフィナは、母親譲りの銀髪と父親譲りのラピスラズリの瞳を持つ美少女だ。
今年で精神年齢が二十三歳になるアードでさえ、ソフィナは将来途轍もなく美しい女性になると思ってしまう程に、彼女は可愛く美しい。
今は美しさより可愛らしさが勝っているが、それでもアードの心を鷲掴む威力はある。もし、それが数年経ち、今よりもっと麗しく美しい女性になった時には、直視出来ないだろう。
すらっと伸びた手足に白い肌が、彼女の親譲りである銀髪とラピスラズリの瞳を映えさせている。
現在、アードとソフィナは職業と初期ステータスを決める儀式の為、両親と一緒に教会へと向かっている最中だ。
二人の後ろには、二人の両親が楽しく会話をしながら歩いている。が、二人の両親の頭の片隅には常にアードとソフィナ、そして彼の服の裾を掴みながら歩いているナヴィがいる。
アードとは違い、完璧に母親から譲り受けたブロンドの髪、そして父親譲りで、アードの翡翠の瞳より輝いているそれがナヴィの幼さを引き立てながらも、彼女の美しさを前面に押し出している。
アードとソフィナより一つ歳下のナヴィは彼の妹で、いつも一緒にいる。それ程までにナヴィはアードが大好きなわけで──
「お兄ちゃん。ソフィナと話しちゃダメ」
「何でさ?」
「ダメだから」
『ダメだから』の一点張りで、アードとソフィナの会話を禁止しようとするナヴィ。流石のアードにもナヴィの考えている事が分からない。アニメやラノベといった二次元の偏った妹の事しか分からない彼には、三次元の妹の考える事など分かるはずもなかった。
「母さーん。ナヴィが疲れたってー」
「そうなの? アーちゃん。ナヴィ疲れてるならこっちへおいで。おんぶしてあげるから」
アードは実の母親であるルーラに嘘を付き、ナヴィを母親に押し付けようとする。
それでもアードの言葉は嘘だけでは無く、ナヴィの事をしっかり考えて言っていて──
「お兄ちゃん。家に帰ったら、私が良いって言うまで遊んでもらうから」
「はい」
もはやどっちの立場が上なのか分からないアードとナヴィ。そして、そんな二人を見ているこの中で最も子供らしいソフィナが首を傾げているのであった。
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