第5話

 ふと思ったが、魔力転移ってのはどんな方法なのだろうか。チョメ曰く、彼女の中の魔力を俺の中に転移させるだとか。転移と言うからには、彼女と俺は接触しなければ転移出来ないはずだ。チョメの中の魔力を、俺の中に。漫画とかだとそういうのはだいたいキスだと相場が決まっている。となると、俺とチョメもキスで魔力を転移をさせるのだろうか。そう思うと、俄然やる気が湧き上がってきた。ただ勘違いしないでほしいが、それはあのキチモンを倒すために必要な行為だからで、俺にやましい気持ちなど一切ない。美人とキスできるかも、などという煩悩まみれの気持ちなど断じて持っていない。


「さぁやるぞ。」

「急にやる気になったようね、よかったわ。でも魔力の転移には少し時間がかかるの。だ から転移の間に攻撃されて失敗しないように時間を稼いでもらうわ。プリ子に。」


 えっ。プリ子に時間を稼がせるの?プリ子、血だらけの瀕死だけど。倒れてから微動だに してないけど。今の状態で時間稼ぎなんてしたら確実に死ぬだろ。というかもう死んでいる のでは。


「プリ子はもう死にかけだ。別の使い魔を呼ぶことはできないのか?」

「それは無理だわ。使い魔の召喚には時間が掛かるし、多くの魔力を消費してしまうの。 あなたに少しでも多くの魔力を転移するためには、使い魔を呼ぶのは得策ではないわ。」


 つまり、プリ子がやつを食い止めるしかないということだ。ならば非常に心苦しくはある がプリ子に時間を稼いでもらうしかないようだ。きっとここでプリ子に盾になってもらう ことがやつを倒すことに繋がるはずだ。だがその代わり、プリ子は間違いなく死ぬだろう。 しかし手段はそれしかないのだ。やはり現実は無情で、誰もが助かる方法など存在しないのだ。と悲観している俺の背後で、何かが起き上がる気配がした。


 血だらけになった筋肉モリモリのバカでかい図体が、ゆっくりと、静かに、ゆらゆらと燃 える焔のように立ち上がった。動きはまだフラフラとしておぼつかない。だがその顔立ちは 先程とはまるで違い、闘志に満ち溢れていた。その瞳からは燃えるような闘争心と、揺るぎ ない覚悟が感じられた。その姿はもはや一匹の使い魔のそれではなく、戦場へ向かう一人の兵士の姿のようであり、その屈強すぎる全身から溢れ出る気迫は、阿修羅すら凌駕するほどのエネルギーを纏っていた。

 これが本来の、本当のプリ子の姿なのか。今の真の力を身につけたプリ子は、使い魔などではなく、兵士すらも超越した、完全なる怪物に進化したと言っても過言ではないだろう。 では何がプリ子を立ち上がらせたのか。それは、共に戦うべき仲間が、守るべき仲間ができ たことを感じたからだろう。それらの存在が、つまり俺たちが、プリ子を覚醒へと導いたのだ。たぶん。


 プリ子は決意に満ちた瞳をこちらに向けると、無言でコクリと頷き、キチモンを食い止めるために再び戦場へ突撃していった。その背中は、最初の情けない背中とは比較にならない ほど大きく、騎士の盾のように強く頼もしいものに見えた。もうあいつが主人公でいいんじゃないかな。

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