第7話 追憶

「ビシュ、ビシュ……」


 目を覚ますと、ラピスが僕を覗き込んでいた。


「ラピス……此処は、何処ですか?」


 答えを聞かずに体を起こして、周囲を見渡す。どこかの、草原だ。空は灰色の雲に覆われている。陽は高い位置にあるけれど、厚い雲にその光は遮られている。


 視線を下ろすと、手元に僕のレーヴァテインが落ちている。鈍く、その剣先が光ったように見えた。


 そうだ。あれは前の記憶。


 僕は拾い上げたレーヴァテインを空間魔法で仕舞った。


「夢を、見ていたのか?」

「夢……そうですね」


 僕を心配そうに見つめるラピスが、風に吹かれ、乱れた髪を整える。その右手に、瑠璃色るりいろの石が付いた、銀の指輪をはめている。


 僕らの空間魔法は、時空を超える。いつか、どこかで『僕のもの』になったもの・・は時空を超えて取り出せる。レーヴァテインのように。


 僕は、再び空間魔法を使う。遠い昔に滅びた王国を想いながら……ゆっくりと握りしめた手を開いた。


 手のひらに、ラピスが付けているものと同じ、瑠璃色の石が付いた銀の指輪を取り出す。


「ビシュ、それは……!」


 ラピスが驚いて、その深紫の瞳で僕を見つめる。僕の前に座り込み、ゆっくりと、僕の手のひらから指輪を取る。


 手を裏返して甲を向けると、僕の左手の薬指に、慣れない手つきで指輪をはめた。僕はそのまま、ラピスの右手を握り、その指輪を外すと丁寧に左手の薬指にはめる。


 その可愛らしい左手を、僕の左手の上にそっと重ねて微笑む。


 ラピスは、あの日のように、驚きと嬉しさを一遍に表したような顔をして僕を見つめた。


「永遠の愛を誓います。ラピス、あなたを愛しています」

「わらわも、ビシュを愛している。思い、出してくれた、の……」


 ラピスは目に涙をいっぱいに浮かべて、僕の懐に飛び込んできた。


 僕は、ラピスを抱きしめる。優しく、強く。


 もう、ひとりにはしない。


 あの日、僕のお姫様がプレゼントしてくれた瑠璃色の石の艶めく指輪は、


 永遠に


 何度生まれ変わっても、僕らを繋いでくれる。


 草原を暖かい風が吹き抜ける。


 ほんのりと、花の香りがする。


 僕の懐で、僕を見上げる、僕のお姫様。


 その肩を抱き寄せて、頰に伝う涙を拭った。


 あの日のように。

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