第3話 夢
僕は毎日のようにルリア様に剣を教えていた。ルリア様と過ごす時間は、とても充実していた。
レーヴァテインは魔力と体力を同時に酷使する。けれど、それに慣れるまでにルリア様はそれほどの時間を要しなかった。ルリア様は、とても強い魔力を秘めているようだ。
僕の横でルリア様が休憩しながら大剣をじっと見つめている。
「シュウ。この大剣は不思議だ。
「そうですね。僕から離れても、また僕のところに戻ってくるんです」
「……どういうことだ?」
「僕、何度かこの大剣を盗まれてるんです。でも次の日に目を覚ますと目の前に落ちてるんです」
「剣が帰ってくる? 空間魔法で取り出すわけではなく?」
「はい、そうです」
「ほぉ……そんなこともあるのだな。というか、こんな大切なものを盗まれるとはシュウも情けないな」
「ふふっ……そうですね。僕はルリア様ほど魔力が強くないので、疲れると何処でも眠ってしまうんです」
ルリア様は僕の話を疑いもしないで、少し笑いながら抱えていた大剣を僕に突き返す。
「シュウが疲れ果てて眠るところなど、見たこともないが?」
「この国は、平和ですからね」
ルリア様はドレスではなく、淡い紫色の髪によく似合う、黒色の動きやすそうな服を着ている。僕に剣を教わる時はいつもこの服を着ているので、ルリア様もお気に入りなんだろう。ドレス姿のルリア様も可愛らしいけれど、何故かルリア様にはドレスよりも似合っている気がしていた。
ルリア様が僕に剣を教わることを誰も反対しなかった。
「シュウ。なぜ、わらわが剣を教わりたいと思ったのか……きいてくれないか」
ルリア様が、今にも雪が降りだしそうな曇天を見上げながら呟いた。
「はい。もちろんです」
ルリア様はこちらを見ないけれど、僕はそれでも構わずに微笑みながら返事をする。
「……夢を見た。わらわは、自分の身を自分で守れるくらい強くならなければいけない」
「
「平和な国のお姫様では、嫌なのじゃ。わらわは……」
何処か思い詰めたような顔をするルリア様が、また愛おしく、僕はルリア様を見つめた。
僕には、ルリア様の言う"夢"の意味もわかっていた。
「ルリア様は、僕がお守りします」
僕の言葉に、ルリア様は少し驚いた顔をしてから、嬉しそうにあごを引いて上目遣いで微笑む。
「頼りにしているぞ。シュウ」
「僕は、ルリア様のために生きているんです。命の尽きる時までお仕えし、お守りします」
僕は自分に言い聞かせるように呟いた――そう。この体が動かなくなる、その時までしか今のルリア様を守ることは出来ない。だから僕は、ルリア様よりも先に死ぬわけにはいかない。
僕の腕にしがみついて、僕を見上げるルリア様は、深紫の瞳で僕を捉えて離さない。いつも……ずっとずっと前から僕らはこうして生きてきたんだ。
そして僕は、ルリア様だけを見ている。
いつも、何度生まれ変わっても――
――――――――――
また、夢をみた。
今の僕ではない僕の"過去"なのか"未来"なのかはわからないけれど、僕はやっぱり、ルリア様に仕える兵士だった。
ある日突然、ルリア様の命を狙う二人の魔法使いがやって来る。
僕は、ルリア様を守るため、その魔法使いと戦う。
けれど、僕は弱く、その魔法使いに敵わない。どんなに必死に戦っても、まるで歯が立たない。
僕は、死を覚悟すると、その魔法使いと自分を同時にレーヴァテインで貫いた。それでルリア様を守ったつもりになっていた。
消えゆく意識のなかで、ルリア様の悲しそうな顔だけが、ただ心残りで……。
次に見た夢は、ルリア様と旅をしていた。
ルリア様と僕は、二人で誰かを探していた。
僕はその人をよく知らないけれど、ルリア様はその人を慕っている。
とても強い、味方になってくれる人だと話すルリア様に、僕は少し嫉妬した。
そしてある日、僕はあの魔法使いと戦い"水の毒"を浴びる。
その毒に日々弱っていき……僕はまた、ルリア様を残して死んでしまう。
ルリア様の悲痛な叫びだけが、夢のあとに残る。
いつも結末は同じだった。
いつも……僕はルリア様を残して死んでしまう。
そして、生まれ変わる。生まれ変わる度に、夢を見る。
少しの記憶と引き換えに、僕は夢を見て、いつも同じようにレーヴァテインを取り出す。
そして、ルリア様を探しに行く。
そして、ルリア様を残して死んでいく。
ある時。
僕は傭兵だった。何処の国にも属さず、一人で旅をしていた。
そして気まぐれに魔物に襲われる人を助けた。
魔物に襲われて死ぬような弱い者になど興味もなかったけれど、その時は何故か、そうしなければいけない気がした。
助けたのは、身分の高そうな女の人とその従者だった。
その女の人は僕にすごく感謝をして、お礼をしたいと言った。
そして僕は、その人に連れられて、大きな城に招かれた。
助けたのは、ある国の女王様だった。
そこで僕は大きな剣を貰った。
扱える者がいないその剣は、ずっとその国に保管されていたと言われた。
僕はその剣を貰う代わりに、その女王様に仕えることを約束した。
その剣は妖しく、鈍く光って……僕の剣になった。
そう……。
僕は女王様にレーヴァテインを貰ったんだ。
その代わりに、女王様を守ることを約束した。
レーヴァテインの折れるまで、ずっと女王様を守ると誓った。
そう……レーヴァテインの折れる、その時まで。
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