死人にくちなし悪魔にシナチク

明日香狂香

第1話

「はじめまして、わがはサガン。魔界まかいからの使者ししゃ以後いご見知みしりおきを。」

 突如とつじょ高層こうそうマンションのまどあらわれた黒尽くろづくめの紳士しんし

以前いぜん父君ちちぎみたすけていただいたりをかえしにまいりました。」

 かれはなしによれば、数十年前すうじゅうねんまえ地上ちじょう偵察ていさつかえそこねたかれを、霊能者れいのうしゃだったぼくのちちおくとどけたらしい。そのちちは、ぼくにこのマンションの一室いっしつのこしてすでにくなってひさしい。

今日きょうのところは、挨拶あいさつまで。」

 というと、やみなか姿すがたした。

ゆめちがいない。」


 翌朝よくあさめるとだれ枕元まくらもとでぼくのひたいをつんつんといている。

「お目覚めざめですかな、ご主人様しゅじんさま。」

 サガンだ。ゆめではなかったらしい。

主人しゅじんじゃない。悪魔あくま契約けいやくしたおぼえはない。」

 うろたえるぼくをて、サガンは不気味ぶきみ薄笑うすわらいをうかべていた。

「これは、父君ちちぎみとの契約けいやく。それに悪魔あくまとの契約けいやくではなく、悪魔あくまからの契約けいやくです。」

 今回こんかいいのちうばわれるようなはなしではないらしい。霊能者れいのうしゃだったちちは、不当契約ふとうけいやくられるたましいもど仕事しごとをしていた。だから、色々いろいろ悪霊あくりょうからうらまれていたらしい。その怨霊おんりょうが、子供こどものぼくをねらっているためまもってくれ、という契約けいやくらしい。いままでも、かげながらまもっていたらしいが、30さいになったの契約更新けいやくこうしんたようだ。ずいぶんと律儀りちぎ悪魔あくまだ。あのってのもらくじゃないんだな。そういえばいままでも、突然自動車とつぜんじどうしゃんできたり、ビルのうえから看板かんばんってきたりということがあった。いづれも、間一髪かんいっぱつけてきた。

 とにかく迷惑めいわくはなしだ。きていれば、おや尻拭しりぬぐいをさせられる子供こどものことをかんがえろ!と、いってやりたいところだ。

 会社かいしゃくと、となり部署ぶしょ女子じょし

今度こんどごうコンしましょうよ。」

 とさそってきた。

「そのうちね。」

 さけめないぼくには、ごうコンなど地獄じごくだ。

彼女かのじょには、白狐びゃっこがついてます。」

 サガンがそっと耳打みみうちしてきた。こいつの姿すがた普通ふつうひとにはえない。

 上司じょうしさそわれ、ひるちかくのいきつけのそばやへった。

「かけ。」

遠慮えんりょしなくていいんだぞ。」

 上司じょうしはいつもふとぱらだったが、まって大盛おおもりりのたぬきそばしかたのまない。定食ていしょくとかべてみたいが、こわくてたのめない。その上司じょうしは、

「は~、ったった。」

 といいながら、中年太ちゅうねんぶとりでしたはらたたくのだった。

「あのかたたぬきですね。」

 また、サガンだ。

「その情報じょうほうらない。」

 そう、いいたかったが相手あいて悪魔あくまだ。機嫌きげんをそこねるとなにをされるかわからない。

 仕事中しごとちゅうにも、色々言いろいろいってくる。社長秘書しゃちょうひしょして

「あのかた弁天べんてんが、守護しゅごされてますね。」

 とか、取引先とりひきさき部長ぶちょう

「あのかたにはぬえがとりついています。信用しんようできません。」

 とか忠告ちゅうこくしてくる。仕事しごとやくつこともあったが、ほとんどはどうでもいいことだった。

「ずいぶんと日本にほん妖怪ようかいくわしいな?」

魔界まかいかえるときに勉強べんきょうしました。地獄じごくツアーにまぎむために試験勉強しけんべんきょう父君ちちぎみにしごかれました。いやあ、あのとき地獄じごくでした。あのかたおにです。」

 悪魔あくまおにといわれる親父おやじって・・・。悪魔あくまとはずいぶんおしゃべりなものだな、とおもいながら自宅じたくかった。もしや、こうやって衰弱すいじゃくさせてころすつもりじゃないかとうたがった。

 ながらぞくのぼくは、こいつのおしゃべりをラジオからながれる雑音程度ざつおんていどにしかかんじなかったが、それでもがめいる。自炊じすいしないぼくは、まえから一度行いちどいってみたいとおもっていたラーメンはいった。ちいさいみせだが、すごいサービスがあるらしい。たサイコロのによってその内容ないようことなるのだ。このまえ同僚どうりょうがチャーシュー2ばいてたと自慢じまんしていた。そのまえは、後輩こうはい大盛おおも無料むりょうになったといっていたな。

 つけめんたのむことにした。ぼくのきらいなものがはいってなさそうだからである。

ました。本日初ほんじつはつのピンゾロ。」

 店主てんしゅこえに、きゃくたちががる。これは期待きたいできそうだ。もしかしたら、タダになったりして。わくわくしながらてきたどんぶりをおどいた。大盛おおもりのシナチク。

「パンダじゃないんだ。たけばっかえるか。」


「めずらしい。本物ほんものののシナチクですね。」

 悪魔あくまうしろからささやく。かれいわく、孟宗竹もうそうだけ発酵はっこうさせたもので、最近さいきん真竹まだけからつくるメンマとはちがうらしい。そんな、うんちくはどうでもいい。シナチクもメンマもきらいだ。なん栄養えいようもなさそうな木片もくへんをうまそうにべる連中れんちゅうれない。そもそもさけもシナチクもきらいになったのは、んだ親父おやじのせいだ。あさ仕事しごとからかえってくると、きよめとかってさけむ。そのときさかながシナチク。たくあんに食感しょっかんだが塩気しおけがなくて辛口からくちさけのアテにはちょうどいいそうだ。

 ぼくは大量たいりょうのシナチクをはしでげると、悪魔あくままえした。悪魔あくまは、一瞬いっしゅんうしろにがった。あっ、たけには邪気じゃきはらちからがあるといたことがある。ぼくはシナチクをべるふりをしながらコンビニでもらったふくろにすばやくつめた。

 いえのつくと、部屋へやのあちこちにかえったシナチクをいた。

「やめたほうがいいですよ。」

 まどそとから、悪魔あくまさけぶ。今夜こんやはゆっくりねむれそうだ。そういえばパンダの無邪気むじゃきさはたけべているからなのか?


 めると、なにやらからだかるい。むかし高熱こうねつしたときのかんじにていた。

「お目覚めざめですか?」

 よこでサガンのこえがする。

「えっ?!」

 まえには部屋へやまかねむ自分じぶんがいる。ぼくはまどそと空中くうちゅうかびながらそれをている。

「だから、忠告ちゅうこくしたのに。余計よけいなことをするからころされてしまったじゃないですか。」

 加工品かこうひんのシナチクでは霊力れいりょくひくく、免疫力めんえきりょくのある日本にほん妖怪ようかいにはかないらしい。

本来ほんらいなら順番じゅんばんさばきをつところなのですが、このままでは契約けいやく失敗しっぱいわたしにまでばつくだります。まずは、閻魔庁えんまちょういの官吏かんりがいますから、はなしいてもらいましょう。」


 ― 閻魔庁えんまちょう ―

 死者ししゃ同伴どうはんということで三途さんずかわはすぐにわたれた。

「それは、どくでしたね。大王だいおう今不在いまふざいでしてね。もどられるまで、ゆっくりしていくといい。地上ちじょうのまがいものちがい、本当ほんとう地獄泉じごくせんめぐりができまますよ。おはだすべすべ冷泉れいせんいけと、気分爽快きぶんそうかい灼熱しゃくねつサウナ、どちらもおすすめですよ。」

 せっかくだが、閻魔えんまかえるまでおくたせてもらうことにした。

「お父上ちちうえには、地獄じごく仕事しごと手伝てつだってもらっていたおんがある。死体したい雪女ゆきめ保存ほぞんさせるが、一週間いっしゅうかんしかたんぞ。くさったった死体したいもどらんからな。インフルエンザということにすれば一週間いっしゅうかん仕事しごとやすめるじゃろ。電話でんわはやっかいじゃな。しかたがない、電話番でんわばんおにもつけてやろう。さばくのはそれからにしてやる。」

 いかついかお似合にあわず、大王だいおうはいいやつだ。

かえりについては、トップシークレットなのでおしえられん。まりをえるとなると地上ちじょう時間じかん千年以上せんねんいじょうかかるかな。」

 そんなにってられない。ぼくたちはすぐに閻魔庁えんまちょうあとにした。部屋へやぐちでサガンのいの官吏かんりにあった。おたが他人たにんのふりをしてすれちがった。


大王だいおうれい事案じあん回答かいとうかみからとどきました。」

 官吏かんり閻魔えんま巻物まきものわたす。

さばきにかえりもふくめてよくなったぞ。」

肉体にくたいさえ無事ぶじならかえれる、通称つうしょう、クーリングオフ判決はんけつ。おかげで、さばきが効率化こうりつかできます。」

 閻魔えんま言葉ことば官吏かんりこたえる。

「もとは空海くうかいのやつを現世げんせもどすためにしたものだからな。これで、物顔ものがお霊能者れいのうしゃどもを排除はいじょできる。」


 なんてもく、地獄じごくほうりされてしまった。

「どうすればいいんだよ。」

 ぼくはサガンに怒鳴どなったが、やつは

「さあ、こまりましたね。」

 というだけでてにならない。地獄じごくいがいるはずもない。

「とりあえず、父君ちちぎみさがしますか。」


地獄じごくツアーの下見したみというにしますから、余計よけいなことはわないでください。」

 地獄じごくには、おにのほかに亡者もうじゃ死者ししゃがいるらしい、亡者もうじゃさばきが決まった者で、死者ししゃさばかれるまえものらしい。親父おやじのような霊能力者れいのうりょくしゃだったものは、亡者もうじゃとしてではなく転生先てんせいさきまるまで、地獄内じごくない死者ししゃとしてらすのだそうだ。なので、いまどこにいるのかはだれらない。


 ― 池地獄いけじごく ―

「お~い。」

 どこかで、こえこえる。うちのじいさんがいる。いけでぷかぷかただよっている。そういえば、じいさんは坊主ぼうずだった。しかし、坊主ぼうずがなんで地獄じごくにいるんだ?

「なんじゃ、おまえんだのか?」

 とりあえず、地獄じごくはじめてまともにはなしをできる死者ししゃにあった。

坊主ぼうずって天国てんごくくんじゃないのか?」

極楽ごくらくですね。ちなみに天国てんごくは、ワインとパンが放題ほうだい放題ほうだいです。それに、よるになればひかかが聖者せいじゃたちが行進こうしんをします。」

 サガンは顔色かおいろひとつえずにこたえる。

遊園地ゆうえんちのパレードじゃないか。」

 と、つぶやいた。

「いえ、歴史的れきしてきにこちらほうがさきです。」

「こいつは地獄耳じごくみみか?」

 とおもわず、んでしまった。

「はい、悪魔あくまですから。」

 じいさんは、あいかわらずぷかぷか漂っている。

極楽ごくらく一日中座いちにちじゅうすわつづけるだけなんてつまらん。」

 じいさんのはなしには興味きょうみはない。さっそく親父おやじ居場所いばしょたずねた。まれわりをかえすため、死者ししゃには名前なまえはない。とりあえず親父おやじ似顔絵にがおええがいていてみた。

「あいつは、さむがりだったから、もっとあったかいところにいるんじゃないか?」


 ― 瓮熟処おうじゅくしょ ―

「ここが、有名ゆうめい瓮茹かめゆでのさとです。」

 湯番ゆばんおに案内あんないされてやってたところは、ちいさなかめがびっしりとならんだところだった。わたされた案内あんないると、かめごとに効能こうのうかれている。

むかしは、熱湯好ねっとうずきの年寄としよりばかりで退屈たいくつでしたが、薬湯やくゆにしたらこのとおり。若者わかものたちにも大人気だいにんき。あ、もちろん源泉げんせんかけながし。かしなんて使つかってませんよ。それから、水質検査すいしつけんさ毎日行まいにちおこなっています。」

 若者わかものが、売店ばいてんしろ液体えきたいはいったビンをい、もうとしていた。

「あ、おきゃくさん。風呂上ふろあがりの牛乳ぎゅうにゅうは、左手ひだりてこしててむねって、ぐいっと。」

 案内あんないおにが、瓮上かめあがりの亡者もうじゃ指導しどうする。

最近さいきん連中れんちゅう流儀りゅうぎがなってない。おかげで、苦労くろうがたえませんよ。かれつみですか?給食きゅうしょく牛乳ぎゅうにゅう粗末そまつにしたんですね。」

 どうやら、瓮茹かめゆでのあと牛乳ぎゅうにゅうむというらしい。

近年きんねんつみ多様化たようかしてまして、それにあわせたばつ用意よういしなくちゃならない。おかげで経費けいひはかさむ一方いっぽうです。」


 どうやら親父おやじはここにはいないらしい。


 ― 阿鼻地獄あびじごく ―

 いけにいたじいさんの、つれあいだったばあさんがいた。生前せいぜんはイタコをやっていた。こえをかけようとしたが様子ようすへんだ。大声おおごえんでいる。

「あれは、亡者もうじゃですな。」

 サガンがつぶやく。

「よくいるんですよ。エセ霊能者れいのうしゃ大罪たいざいですな。」


 ― 不喜処ふきしょ ―

「ペットロスの亡者もうじゃえて、いやされると大人気だいにんきです。動物どうぶつたちもペットれいえて、ぺろぺろなめたり、アマガミ程度ていどです。おかげでばつになりませんから、天国てんごくにペットロサンゼルスとして移管いかんされる予定よていです。」


 ― 極寒地獄ごっかんじごく ―

 さむがりの親父おやじがいるとはおもえないが、ねんのためだ。おおきなとびらけてまかに入ると、なにやらちいさな動物どうぶつたちがぺたぺたと近寄ちかよってくる。

歓迎かんげいのペンギンです。」

 出迎でむかえたおには、背中せなかまる両手りょうてをこすりあわせてこたえた。さむいのか、いやゴマすりのようにもえる。

 おおきな一面氷いちめんこおりみずうみ中央ちゅうおうにある。こおりうえまるいものが転々てんてんとある。

「あれは、亡者もうじゃたちのあたまです。みずうみにつかって、ああやってあたまだけしています。温暖化おんだんかってやつの影響えいきょうでだんだんちいさくなりましてな、こうやって収容率しゅうようりつたかめています。ツアーにはぜひ名物めいぶつのワカサギ霊釣れいつりを。被爆霊ひばくれい大量たいりょう入荷にゅうかしましたから。」

 そんなみずうみ中央ちゅうおういとをたれているやつがいる。

親父おやじ、こんなところでなにしてる!」

 ぼくは、そいつの後頭部こうとうぶ石入いしいりの雪玉ゆきだまおもいっきりぶつけた。これくらいしたってぬようなやつじゃない。もっとももうんでいるか。

「おお、おまえはたしか301回目かいめ転生時てんせいじ息子むすこ。」

 なんだよ、その囚人番号しゅじんばんごうのようなかた

「あれ?地獄じごく使者ししゃじゃないか。そうか、無事契約更新ぶじけいやくこうしんできたってわけだ。」

 能天気のうてんき親父おやじ言動げんどうにいらつきながらも、ことのきを手短てみじかはなした。

「そりゃ息子むすこ、おまえわるい。まあゆっくりしてけ。いま、つれたてのワカサギをご馳走ちそうしてやるからな。」

 るとバケツのなかにはみずしかはいってない。

霊能者れいのうしゃだ、親父おやじじゃないかられないってことはないだろう。」

 坊主ぼうずとボウズをかけた親父おやじギャグか。ただでさえさむ極寒地獄ごっかんじごくなんだ、勘弁願かんべんねがいたい。

「シナチク?あんなくさったようなたけ霊力れいりょくのこってるわけないだろう。たんにこいつがシナチクぎらいってだけだよ。地獄じごくツアーの特訓とっくんときおれ夜食やしょくがシナチクだったからな。さけさかなには最高さいこうだよ。」


 時間じかんがないぼくたちは、なんとかかえ方法ほうほうすことができた。

現世げんせものくちにすること。ものはダメね。気管きかんまって本当ほんとうんじゃうから。そうえば、あのときあせったなあ。一杯いっぱいやりながらあかぼうのおまえ風呂ふろれてたとき、すべっておぼれさせちまってな。ってたつまみをくちにつっこんだらかえったぞ。」

 なんだ、簡単かんたんなことじゃないか。って、おい!なんてことしてくれたんだ。とにかく、時間じかんがない。

三途さんずかわわたっていたらとてもいません。近道ちかみちしてかえりますよ。」

 ぼくらは、いけなかんだ。極寒地獄ごっかんじごくいけこおつめたさだ。

霊体れいたいにません。苦痛くつう感覚かんかくはありますよ。地獄じごくなんですから。風邪かぜもひきません。ですから、医者いしゃいらず。」

 息苦いきぐるしさはない。いけそこくらだ。どのくらい、もぐったろう。いきなり、さおひかり空間くうかんにでた。

ちる~。」


 ― 阿鼻叫喚地獄あびきょうかんじごく ―

 ぼくのあわてぶりにはもくれず、サガンは

「このまま地面じめんまでちますよ。いそいでください。のんびりしてたら数千年すうせんねんかかってしまいます。」

 といって、さかさまに急降下きゅうこうかしていく。バンジーもしたことないのに、いきなりスカイダイビングって。そのまえにパラシュートがない。

 まさに、恐怖以外きょうふいがい何物なにものでもなかった。ここだけはんでもたくない。まれわるにしてもとりだけはやめよう。

初心者用しょしんしゃにオプションとしてタンデムもできますが、いかがいたします?」

 ぼくはくびよこった。悪魔あくまとくっついてちるなんてできるか!

 地面じめんが、ちかづく。すみ一角いっかく巨大きょだい建物たてものがいくつもえてきた。やけにはなやかなまちだ。

「あそこが天国てんごくです。まわりは、阿鼻叫喚地獄あびきょうかんじごくですから、間違まちがえないでください。」

 地獄じごくから落ちた先が天国てんごくって変だろ。つっこみたいが落ちる恐怖で声が出ない。

「何で地獄じごくなか天国てんごくがあるかっておもいますよね。」

 サガン、おまえこころめるのか?なら、この恐怖きょうふもわかってくれ。

「ここにると、みなさんたずねるんですよ。地獄じごく隙間すきま天国てんごくはあるんです。到着とうちゃくするまで、まだ時間じかんがありますね。かみ人間界にんげんかいをおつくりになりました。もともと人間にんげんかみおなじく不老不死ふろうふしでした。そう、あのどくりんごをべるまで。あれは『知恵ちえ』ではなく『への』です。かみ人間にんげん支配しはいするために地上ちじょうめようとしました。人間にんげんぬことでれいとなり、かみ支配しはいからのがれ、この霊界れいかいにくるのです。最初さいしょにできたのが地獄じごくです。もともとわがままな人間にんげんですからね。かれらの管理かんりのために、悪魔あくまおに派遣はけんされました。宗教しゅうきょうひろまり、あとから地獄じごく空地あきち天国てんごく極楽ごくらくができました。天国てんごくにはかみはいません。かみ人間界にんげんかいてんにいます。そこであるじとして人間にんげん支配しはいしています。かみれい一緒いっしょにいるわけないでしょ。ですが霊界れいかいにも権力者けんりょくしゃあらわれました。釈迦しゃかやキリストはその代表格だいひょうかくです。極楽ごくらく支配しはいしている釈迦しゃかは、反乱はんらんおそれてひたすらをといています。死者ししゃはただボーとっているだけです。キリストは天国てんごく支配しはいしています。」


 天国てんごく到着とうちゃくしたぼくたちは天国てんごくもん目指めざした。きらびやかな街並まちなみ。軽快けいかい音楽おんがくも流れている。

天国てんごく会員制かいいんせいです。当分空とうぶんあきはでません。」

 サガンは観光案内かんこうあんないでもするかのような口調くちょうはなした。

「そんなに、あののことをしゃべっていいのか?」

にしないでください。どうせかえったときにすべてわすれますから。」

 この苦労くろうをすべてかったにされるのか。おにだー、いや悪魔あくまだった。

 天国てんごくもんから人間界にんげんかいちかかった。

三途さんずかわわたちんきました。」

 これが、こいつの本心ほんしんか。

 んでから一週間いっしゅうかん。なんとかった。

「よかった、った。」

「プランどおりです。わなければ直接届ちょくせつとどけます。」

 サガンがゆびらすと、ぼくたちはいままでとおってきた地獄じごく天国てんごく次々つぎつぎ一瞬いっしゅん移動いどうした。安堵あんどしているぼくにサガンはさらにちをかける。

「ちなみに、わたくし地獄じごくツアーのガイドの資格しかくっております。地獄じごくもどるためにです。悪魔あくまですから、ツアーきゃくではなくガイドの試験しけんけました。今回こんかいはオプションなしですのでおだいは0ねんです。ちなみに、タンデム飛行ひこう寿命じゅみょうたった10年分ねんぶんだったんですがね。地獄じごくツアーのための幽体離脱ゆうたいりだつとして処理しょりしますので、評価用ひょうかようアンケートへの記入きにゅうをおねがいします。」

おにめ!」

悪魔あくまです。」


 部屋へやにかえって早速食さっそくたものさがす。冷蔵庫れいぞうこなか新品しんぴんみたい。なにもない。台所だいどころにせんべいがのこってたはずだがそれもない。部屋中へやじゅう食料しょくりょうぶくろ散乱さんらんしている。電話番でんわばんおにたちが宴会えんかいをしてすべてってしまったらしい。まさおにだ。料理りょうりをしないぼくだ。調味料ちょうみりょうすらもいてない。霊体れいたいではものもできない。あたりを見回みまわすと、こおりついた茶色ちゃいろ角柱かくちゅう物体ぶったいがあちこちにころがっている。サガンよけにいたシナチクだ。からえられない。ぼくはありったけのシナチクをひろあつめると、ぼくの死体したいくちにつっこんだ。親父おやじっていたつまみってのもシナチクだったっけ。

「おえっ。」

 きそうになり、うしった。

 がつくと、くちいっぱいにシナチクをくわえていた。悪魔あくまおにえていた。それ以来いらい、シナチクがべられるようなった。いまでは、夜食やしょくにシナチクをかじりながら番茶ばんちゃをすすっている。

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死人にくちなし悪魔にシナチク 明日香狂香 @asukakyouka

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