第2話 神谷バー

その日は土曜日で、俺は東京メトロ銀座線の浅草駅を出て、神谷バーに向かった。


件の元魔法少女と噂がある占い師に会う為だ。


とは言え、神谷バーで待ち合わせをしている訳ではない。

あそこはとてもノスタルジックで、時々無性に行きたくなる魅力ある店だが、人に相談をするには優しく見積もってもかなり不向きな場所だった。


相談とは違うが、昔神谷バーで女性を口説こうとした事があった。

バイト先が同じで1つ年上の女性。

当時私が知っていた、最もお洒落な店が神谷バーだった。


始めは問題なく談笑に花が咲いた。

しかしいざ告白しようとした頃には、店が混み始め、俺の勇気を込めた告白は彼女の「え、なに?もう一回言って」により、見事に打ち砕かれる事になった。


そしてさらにバツの悪い事に、目的の彼女に伝わらなかった告白は、テーブルを少し開けて隣に座っていたおじさんの耳に入った。


酔っ払ったおじさんは勢いよくこっちを向き、俺を見て、彼女を見てニヤニヤした。


「おう、姉ちゃん。どうなんだよ、OKなのか駄目なのか!」


この世の下品な展示会でも開いているのであろうか、その下賎な口を大きく開けその親父は大声で彼女に絡む。


俺の告白を聞き取れなかった彼女はキョトンとし、そこからは親父による解説が始まった。


親父の下品な声が店内に響き渡り、こちらを向く人の目が増えて行く。


俺はもう電気ブランしか見れなかった…。



苦い思い出に浸りながら俺は神谷バーへと入っていった。


トラウマとも言える思い出がありながらも、こうして神谷バーに足を運ぶのは、それを差し引いてもそこに魅力があるからだろう。


彼女との連絡はもうないが、神谷バーには電気ブランがあるのだ。


あの日以来、電気ブランとはすっかり友達になれたような気がする。


そして今日は、占い師に会う前に一杯景気付けをしようとする算段なのだ。

魔法少女は明るくないといけない。

さしずめ今の俺には電気ブランがマジカルステッキなのだろう。


神谷バーを出ると、オレンジが下の方へと追いやられ、だいぶ薄暗くなっていた。


俺は交わした約束を忘れないよう、目を閉じ確かめるかのように歩を進めた。


神谷バーから雷門方面へ進み、2つ目の交差点を右に曲がるといるらしいその占い師は、一体何者なのだろう。

まだ見ぬ冒険が俺を待っている、くぅーワクワクが止まらねぇ。

と、一応次回予告の終わりっぽい事をブツブツ呟きながら、一旦お別れをしよう。

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