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「イズミさんはダメな男じゃないですよ」
その言葉で久しぶりに視線がぶつかる。答えを待っているように、その顔は不安で塗りたくられていた。
「どうして」
「ダメな男なら、既に体面を気にせずにいっているでしょう?」
何も考えずに、なりふり構わずに。でもイズミさんはそうしなかった。
「勇気がなかったわけじゃないでしょう? 本気だから、誠実にお相手の方を想っているからこそ、行動できなかったのでは?」
またふいっと視線を外される。眉根を寄せた表情は困った顔だろうか。
「今までのこと、全て無駄ではありません。思い出は悪いものではないのですから」
その時間は嘘じゃないから。
「イズミさんはダメではありません。とても素敵ですよ」
たとえそれが、叶わない恋だとしても。
「ありがとう、ございます」
苦く笑った彼の手の中で、かろん、と氷が回る。それでもなお、彼の心はスッキリと晴れることは、今はないだろう。
「イズミさんは十分いい男ですよ。私なんかよりずっとね」
「まさか」
「私は嘘を吐きませんよ?」
「ふふ、俺はマスターよりいい男を知りませんよ?」
「何をおっしゃいます。織田信長も、坂本竜馬も、イチローもよくご存じでしょう?」
俺はそんな偉人たちの足元にも及びませんよ。
「他の人にとってはそうかもしれません。でも俺にとっていい男は、マスターですよ。憧れます」
「・・・光栄です」
目を細めて答えると、イズミさんがグラスを持ち上げた。
「乾杯、してくれますか」
「もちろんですとも」
琥珀色が満ちるグラスを同じように持ち上げる。
「何に乾杯しましょう?」
「俺の、新しい門出に、ですかね?」
「かしこまりました。では、イズミさんの新しい門出に幸多からん事を願って」
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