芽生えた花は何色か
カゲトモ
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「好きになってしまったものはしょうがないじゃないですか」
下を向いてしまった彼は、聞こえるか聞こえないかの小さな声でそう言った。
――が好きだからじゃなくて、好きになったのが――だっただけだ。なんてセリフ、今まで沢山聞いてきた。
例えば、先生とか、同性とか、兄弟とか、友達の親だとか。意外とそんなドラマみたいなことが、見えてないだけでその辺に沢山転がっているもんだ。
カウンターに座った彼も、その一人。スーツ姿の彼は、まだ二十五歳のイズミさんだ。
「そうですね、それは仕方ないことだと思います。好きと言う気持ちは始めたくて始まる訳でも、終わりたいから終れる訳でもないのですから」
いつの間にか好きになっていて、いつの間にか冷めているのが恋だと思うし、そのスイッチを押すのは相手でも自分でもない。オートモードで勝手にオンやオフになるのだ。
「頭では諦めなければいけないって分かっているんです。もしかしたらこの気持ちは好きとかそう言うことじゃなくて、ただの憧れなのかなとか、ちょっと優しくされたからそういう気持ちっぽくなっているのかなとか」
「えぇ」
「だから、この気持ちを手放してしまおうって思っているんです。諦めようって。最初から無理だったんだ、全部無駄なんだって」
でも、と続けた後に少しの沈黙が流れる。外はとても寒いのだろうか。道に人影はない。
「それも無理なんです」
「それはどうして?」
「だっていつも目で追ってしまうから。ダメだって思っても目は追っている。つい探してしまう。俺はダメな男ですよ」
どうして? どこがダメなんだ。既婚者を好きになってしまったから? 年上だから? 中学生の子供がいるから? 教師だから? 許されない恋だから?
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