情報収集

 ノースリーブラ共和国、首都ノバ・シルビク某所。

ある策戦会議が行われていた……


「西から、西から俺らがやってくる」


「僕はそれを、東に受け流す~」


「西からやってきた」


「彼らがやってきた」


「なんだ、全然話が進まない~」


 策戦会議が行われていても、煮詰まっているかどうかまでは言及していない。


「駄目だ!! このままじゃ一生煮詰まらないぞ!! そもそも誰だよ、情報もないのに策戦会議を始めようとした奴は!! まず情報だろ!! クルアの現状や実刑は何時なのか、そもそも噂通り公開処刑されるのか? なにもわかっていないじゃないか!!」


「落ち着いてアーリン君、この話を始めたのは、貴方よ……」


 人差し指に髪を巻き付けながら少し眠たそうにそう発言したのは、サラ・ドールトン。なんだか凄い人だ。


「え!! 俺? マジ?」


「マジよ、マジ」


「え、マジか、リリィちゃん、俺だった?」


「はい……」


 さっきまで怒号をあげていた俺に少し萎縮しながら答えたのはリリィ・シルビア。通称リリィちゃん、天使の様な存在だ。


「アーリン君、落ち着いてくれ給え、僕が仲間に入って嬉しいのはわかるが、少しはしゃぎすぎだと思うよ」


 そしてこいつはコール・ハードル、つい一昨日仲間になったなんとオアシスアクエリアスの帝国民だ。ついでにまだ完全な信用は持っていないが、さっきも俺と一緒に歌ってくれていたり一緒にいて楽しい人間では有る。


「あ、あぁ、別にコールが仲間になって嬉しくて仕方がないからこうなったわけでは微塵もないのだが、確かに少し熱くなっていたようだ、すまない。

 そしてコールが仲間になった事は本当に関係ない」


「何故、二回も言うんだい? 傷付くじゃないか」


 そんなことを言っているが、全く傷が付いていそうな素振りは無い。

ついでに昨日まではコール君と呼んでいて、年齢も十八と、年下で違和感はなかったのだが、本人たっての希望でコールと呼ぶことになった。尚、サラは何故かコールちゃんと呼んでいる。


「確かにもし最短で公開処刑されれば時間は本当に限られているわ、その場合もう既に二週間は切っていることになるものね。

 でも情報取集の前に策戦会議を初めて、あげく怒りだすなんて、焦りすぎだと思うわ。取り合えず朝ご飯でも食べましょう?」


 サラの言う通りだ。俺は今物凄く焦っている、仕方ないことだとわかっている。まだこの首都に来て三日しか経っていない、成果なんて出た方が驚きなのだ。


「そうだな……すまない、朝ご飯にしようか。今日の朝ご飯はマッカッカスープだ。これで体も心も暖まると良いんだがな、一応コールの分も用意しておいたぞ、食べたければ食べてくれ」


「本当かい、ではお言葉に甘えて……いただきます!!」


 皆もそれぞれコールの後に続いてマッカッカスープを頂く、このマッカッカスープは野菜をふんだんに使用していて、とても栄養価が高い、俺たちが北の寒さに耐えられる秘密の一つだろう。コールは知らないと思うがこのノースリーブラで育ってきた人なら誰もが知っているはずの定番料理、所謂お母さんの味だ。

 このマッカッカスープを作るうえで欠かせないのがビーズと言う真っ赤なお野菜、赤いから辛いスープなのかなと思う人もいるかもしれないが心配は無用だ。このスープの赤身はそのビーズの色素が原因なのだ。

 野菜はビーズの他にも、オニオル、キャロント、キャベス等を使用することが多い、それぞれじっくりと煮込むことで甘みが抽出されるのが特徴の野菜たちなので、このマッカッカスープは野菜の甘みが前面に出ている。


 今日のマッカッカスープもそれらを十二分に煮込んであるからかなり甘いはずで、策戦会議とは打って変わって、よく煮詰まっている……

 野菜が嫌いな人は一度こうしてかなり煮詰められたマッカッカスープを食していただきたい、恐らく美味しいと感じると思う。そしてそれは夢じゃない。


 また、このマッカッカスープだけでは腹は満たされにくいので、パンも一緒に頂くことが多い、このノースリーブラは特有のパンが多く、いつもどれを使用するか迷うのだが、今日はクロニツキーを採用した。理由としては簡単で、女性の事を意識して低カロリーのパンだからだ。それとこのマッカッカスープに良く合うからだ。


「コールはこのスープを食べるのは初めてか?」


「そうだね、こんな深紅の食べ物を見ること自体が初めてかな。幻想的なまでに紅いこのスープを果たして食べてよい物かと迷っていたら、サラとリリィがもう食べ始めていたから僕もそれの後に続いたよ」


 どうやらいただきますと言ったはものの少し戸惑ってしまったらしい、無理もない。今日のマッカッカスープは美しい。


「で、美味しいか? 野菜を軸に使っているんだ。

 野菜が嫌いでも食べやすいように作ってはいるが、もし野菜が嫌いで食べにくいなら無理して食べなくてもいいぞ」


「いや、それは杞憂さ! 非常に美味だ! 僕は野菜が嫌いだと思ったことはないけど、それでも感じられるよ、野菜が嫌いな人でも食べやすいように野菜の旨みを最大まで引き出し、野菜の癖を最小まで抑えている!!」


「それは何よりだ。褒めてくれるのも素直に有難い。

 でもまぁ、厄介なことに野菜の旨みが苦手っていう人もいるんだよ。そんな人にこのスープを出してしまったらもう大変でね。

 ……それは大昔の俺なんだけど。

 懐かしいな、母に初めてこのスープを作ってもらった時だったと思う、母からすればビーズもキャロントも何もかも高いはずなのに、わざわざ買ってきて、今日は冷えるからって作ってくれたんだよな。

 ……あー、すまない、いつの間にか昔話をし始めていた」


 昔を思い出す事なんて最近はあんまりなかったが、このスープを食べて思い出すとはなるほど母親の味とは言いえて妙だ。

 一人でそうやって感慨に浸っていると、思わぬ声が飛んでくる。


「その後はどうなったんですか、アーリンさん」


 声を上げたのはリリィちゃんだった、よく見れば他の皆も俺の方を向いていた。


「気になるのか? まぁ隠すような事でも無いし、いいか。

 その後はだな、言っていた大変なことが起こるんだよ。

 今でこそ平気で食べられるが、当時はとりあえず野菜が苦手で、そんな俺の為に母は作ってくれたんだろうな。

 でも実際ただの野菜嫌いじゃなくて、野菜の甘みが苦手だったもんだから、それを食べて大号泣したんだ。母の優しさが一変して母からの嫌がらせみたいになってしまったんだ。俺はそん時にお母さんなんて大嫌いだなんて言ってしまってな、ありゃもう大変だっただろうな、今でこそわかるがショックだっただろうな」


 当時は小さかったから気づけなかったが、今だからこそ気づく母の思いやりは数えきれないほど有る、その一つ一つがこの一つを起点としてどんどんと浮かんできて少し目が潤う。

 皆も母や父について何かを思い出しているような反応を見せる、頷いていたり、微笑んでいたり、俺やサラ位の年になっても親はずっと親で、逆も然りなのだろう。またリリィちゃんやコールのように若くても気づくところはあって、親の有難さを今一度改めているのだろうか。

 とりあえず、様子を見るに皆良い親に巡り合っているようで何よりだ……

 

 いや、うん凄く良い話で、凄く良い雰囲気なんだろうけどさ、ちょっとしんみりしすぎだな、うん。

 だって、朝ご飯食べるまでの空気考えてみてごらん、おかしいでしょ。

 確かに心も暖まれば良いな、なんて言ったけどこれはもう暖まりすぎだ。


「凄い、なんというか、うん、なムードになってしまったが、朝ご飯も食べて体も暖まったし、気を取り直して情報収集をしようじゃないか!」


 こういう時は無理やりにでも空気を変える一言を発するのが一番手っ取り早い。


「確かにそうね! 少ししんみりしすぎたわね、アーリン君のお母さんには一度会ってみたいものね!! 私も偶には優しさに包まれたいわ!!」


 いつも年上の雰囲気を醸し出しているサラのその一言は、実は無理しているんじゃないかと思ってしまうので正直心配になる。


「じゃぁ、まずどこに行くかを考えないとね」


「そうですね……今この首都で首都の情報が欲しいのであれば、ギルドは不向きかもしれませんね、確かに各方面からの情報という面では良いのですが。

 それを踏まえると、現地の人が通っている飲み屋とかが良いと思います」


「確かにそうだな、それが一番よさそうだ。ただ現地の人が集まっていそうな飲み屋か……」


「あ、それなら僕が知っているかもしれないね」


「知っているかもってどういう事だよ」


「かもというのは、かもということだよ。僕がこの町に最初に来た時にとりあえず入ったお店があったんだけど、そのお店が凄くフレンドリーでさ、僕も楽しくなっちゃって、他のお客さんと呑んで……あ、僕はジュースだけどね、歌って大騒ぎしたよ」


「それで、その店には現地人がいっぱいだったということか」


「そうだと思うよ、俺はこの辺りにすんでいてえらくやかましいから文句を言おうとしたけど俺も楽しんでいたとか、向かいに住んでいてやかましいから文句を言おうとしたが俺も楽しんでしまったとか、隣の店の物だがやかましくて文句を言おうとしたらいつのまにか俺も楽しんでいたとか、みんなそんな事言ってたから」


「……本当に大騒ぎしたんだな……」


「あと、大通りにはなくて、中くらいの路地に入ってから少し歩いたところにあったんだ」


「なるほど、そこは良さそうだな、大通りから逸れているというのが良い、現地の人しか知らないお店って感じがぷんぷんするな、今日の夕ご飯はそこで頂こう、情報収集のついでだが、いつもより贅沢もしようか」


 こうして立地、客層ともにベストなお店があっけなく発見できた。朝ご飯というものは偉大だ。



*


 夜まで適当に時間を潰してそろそろお腹がすいて来た時に全員宿の前で集合した。とりあえず、目指すは大通りだ。大通りに行くにはまず、崖とその向こう側を繋ぐ橋を渡る必要がある。その橋を渡ったらすぐに広場があり、その広場から三叉にひろがるその三つ全てを大通りと呼んでいる。特に賑やかなのは勿論真ん中の道だが、左右の二つもそれぞれの特徴があって面白い、俺が川に落っこちたのは西側の通りだ。


 そして大通りから東に離れれば離れるほど首都は首都でも落ち着いた雰囲気の残る街並みが広がる、今夜行く場所も例外ではない、東の大通りから少し東に抜けたところに点在するはずだ。

 そのお店に近づくにつれて、賑やかな声が聞こえてきた。


「すみませーん」


 そう言いながら四人同時に入る、まるで飲み屋に入ったとは思えない俺の呼びかけにサラは苦笑い、店員も少し戸惑う。


「いらっしゃい!! 好きなとこ座んな!」


 すぐに気を取り直して騒がしい店内でもよく響く声で接客するパワフルそうなおば……お姉さんは見ていてこちらも元気になる。

 とりあえず俺とサラはウォッカ、リリィちゃんはお家で採れたオレンジのジュース、コールは子供の麦酒を頼んだ。コールが一番子供っぽい注文をしているのは、ツッコんでほしいのだろうか、素なのだろうか、どうでもいいので考えるのを止めた。ついでに子供の麦酒とは、ノンアルコールの麦酒風味の炭酸飲料だ、しゅわしゅわと泡以外に楽しむ要素はなく、そんなに美味しくもない。


「あんたら、この町の者じゃねえな!! ここにやってくるとは中々良い目してるじゃねえか!!」


 コールの訳の分からない行動に思考を邪魔されていると、他の客から声がかかった。非常に良い流れだ、自分から話しかけなくていいのは楽だし、何より相手の警戒を解く必要がない。


「あ、おじさん!! 僕だよ、仲間を連れてきちゃったぜ!!」


 俺が返事をしようとしたらコールが先に返事をしていた。どうやらこのおじさんは前に来た時にもあったらしい。


「おぉ!! おめぇさんか!! 一緒にいる別嬪さんにしか目がいっとらんかったわい!!」


 いや、気づくだろ、コール程上品なブロンドの髪はこのノースリーブラではそう見かけるような髪色じゃない。


「別嬪だなんて、お上手ね、僕は嬉しいよ」


 いや、あんたじゃねえよ、あんたは目に入っていないって言ってただろうが、後その口調滅茶苦茶気持ち悪いぞ。


「げーー!! 気持ち悪い喋り方すんじゃねえよ!! それよりお前、一人だって言ってたじゃねえか!! 三人も人連れて、どうしたんだぁ!!」


「だから、仲間だよ、仲間。といっても、一昨日入れてもらったんだけどね」


「そぉかぃ!! 良かったじゃねえか、こんな別嬪さんと仲間になれるなんて運が良いねぇ!!」


 さっきから別嬪さん別嬪さんと言っているが、まさかリリィちゃんじゃないだろうな、サラだと思っていたが油断してはだめだ、おじさんは変態、母も良くそう言っていた!!

 そう思い、おじさんの目線を観察する……おじさんの眼はサラの方向には向いていなかった……やはり、リリィちゃんか、この変態め(尚特大ブーメラン)、おじさんの眼を見る……目が合う、あらどうも。


 ん? 俺と目が合うのはおかしいな、リリィちゃんは俺の後ろにはいないぞ。丸いテーブルを四人で囲っている俺たちは、俺の向かいにコール、サラの向かいにリリィちゃんが座っている。


「おぉ!! 別嬪さんと目が合ったぞ!! ひゃっひゃっひゃ」


 あまり、直視したくない事実に俺はコールに小声で話しかける。


「おい、コール、このおじさんの言う別嬪さん俺じゃね?」


「ははっまさか、勘違いだと思うよ」


「いや、俺と目が合って別嬪さんと目が合ったとか嬉しそうにしてるよ、絶対俺だって、怖いって」


「じゃぁ確認してみよう!!」


 そう言って、コールは動き出した。


「おじさん、さっきから別嬪さんって言ってるの僕の事でしょ!!」


 その質問はどう考えてもおかしい!!


「違ぇ!! そこのショートカットの別嬪さんだ!!」


「俺は男だよ!?」


 焦る、正直汗が止まらない。俺は男俺は男と脳内で何度も反芻させる。


「何! そうじゃったか、えらく美形な男もいたもんだなぁ」


 俺は男だよという声が大きかったらしく、この会話を聞きつけた他の客たちもよってきた。サラとリリィちゃんは少し困っていたが店員のと他の女性客の粛清も有り、なんとかおじさん達と絶妙な距離感を保ちながらコミュニケーションをとっていた。

 コールはバカ騒ぎ、俺は別嬪別嬪とおじさんたちにもてはやされ、しまいには他の女性客にも美形だの羨ましいだの色々言われて正直恥ずかしさや色々な感情で倒れそうだ。


 「でぇ、あんたら、ここに来た目的があるんじゃねぇのか?」


 その一言で空気が一変する。


「何もあんたらを疑っているわけでも、俺たちゃ勘が良いわけでもないさ、ただここに来る冒険者はいつも、何か目的があるってぇだけだ」


「なるほど、ここを訪れる冒険者は少なからずいるわけか……」


「あんたらが何を求めてここに来たかなんてさっぱりわかりゃしねえよ、ここには外の世界の人間はあんたらしかいねえもんだからなぁ」


 なるほど、そんな事を言っているがこの客たちはだいたい察しているに違いない。今まで俺たちのような冒険者が少なからず訪問してきているのだろう。


 こうなると話の切り出し方が大切だ。簡単に見抜ける嘘を、見抜いたから早く教えてくれなんて言ってしまえば、本当に知らないと言われて終わるまでだ。嘘を嘘だと見抜きながら相手に嘘をつかせるのが一番良い、相手は楽しむことが好きそうなおじさんだ。相手はそれを望んでいる可能性が高い、これは簡単な心理ゲームだ。


「あら、私たちには好都合ね」


 さてどうして切り出したものかと一考しているとサラが口を開いた。


「好都合ってぇどういうことだい、外の世界のことなんてなんも知りゃしないぞ」


「ふぅん、わからないの、随分と朴念仁なのね」


 なんとも古臭い言葉を使うが、おじさんにとってはプライドが傷つけられてもおかしくない一言だ。なるほど、相手を煽るとは、サラならではの手法だ。


「朴念仁とは、言ってくれるじゃねぇか、お姉さん」


「私は本当の事を言ったまでよ、勘の良い人も嫌いだけど、勘の悪い人も嫌いだわ、外の世界を知らないのが良いって言ったのよ、じゃぁそれの何が良いのか考えてみなさいよ」


「んぐぐ……へっ、面白くねえお姉さんだ!! だが俺らの負けだよ、知りたいんだろう、この首都の事がよぉ!!」


 サラ、お見事。まさかここまで簡単に相手を折らせるとは、正直敵に回したくない人間である。またおじさんのプライドが高いのも良かった、おじさんにとっては面白くない展開だっただろうが仕方ない、恨むならサラを恨んでくれ。


 ……さらっと仲間を売る俺もなかなか最低だ。



*


「なんだって!! オアシスアクエリアスのスパイを助ける? 馬鹿か? あんたらぁ、とんでもない事しようとするし、とんでもない事俺らに言ったなぁ……」


 コールに話を任せていたら、クルアの情報だけを聞き出せばいいのに、ぺらぺらと自分達のやろうとしていることを喋っていた。

 今、暴動が起きていなかったり、通報されていないのは奇跡だろう。コールのなせる業なのか、この店の客が凄く優しいのか。


「そうかな? 僕は当然の事を言っただけさ、助けたいと思う人を助ける。これ以上の理由が必要無いし、これはそんなに驚くことじゃないでしょ?」


「確かに、そうかもしれねぇが……物事には規模っつうもんがあってなぁ……あんあたら今捕まっていないことに感謝した方がいいぜ」


「すまない、コールに任せていた俺が馬鹿だった。だがそのおかげておじさん達は二つの選択肢しかなくなった。俺たちを助けるか、俺たちを見捨てるか」


 こんなの見捨てる以外の選択肢以外は無いとは思うのだが敢えて明確にすることで相手を惑わせる。


「見捨てた場合どうなるっていうんだい?」


「そうだな、見捨てたら、俺達は悲しむだろうな……ただそれだけだ。おじさん達に危害を加えたところでオアシスアクエリアスのスパイを助けることはできない。俺達がすべき行動はオアシスアクエリアスのスパイを、大切な友人を、助ける事だけだ」


「はっはっはっは、はーーっはっはっは!!」


 それを聞いたおじさんが急に笑い出した。


「何かおかしい事でも言ったか?」


「いや、言ったとも、言ったとも、俺らはノースリーブラの人間だぜ、オアシスアクエリアスのスパイを助ける輩共なんて敵でしかない。逆もそうだろう。でもあんたら、敵を目の前にしてなんだ、危害を加えないだと、なめられたものだ。

 ……だがよぉ、面白ぇ!! すべき事に手段を問わないとは人を殺すことじゃねえ、やるべき事だけを見てそれ以外は最低限やらない事だというのをしっかり理解している!!

 それに熱いじゃねえか!! 国を敵に回しても友人を助けるなんてよぉ!!

 お前らもそう思うよなぁ!!」


「えぇ、そうね!! あたし達も協力するわよ!!」


 おじさんの声にいち早く店員のお姉さんが反応し、それに他の客たちも続く。

騒がしい飲み屋にいた客は総勢で三十人は超えているだろう、そんな大人数が協力してくれるとは有り難い。


「やりぃ! 僕の作戦通りさ」


 これは絶対嘘だと断言しよう。


「仲間が増えるのはありがたいわね、でもおじさん達、スパイの情報、何か持っているの?」


 流石サラ、この流れでも本懐を忘れない、今日すべきことは仲間集めではない、情報集めだ。


「あぁそれなら、牢に詳しい奴を一人知っている。明日またこの店に来ると良い、そいつを待たせておこうじゃないか」


「そうか、じゃぁそうさせて貰おう、おじさん達には世話になる、明日からもよろしく頼む」


 俺の後に皆も続く。


 かなり心強いメンバーが協力してくれる事に自然と笑みがこぼれる。クルア奪還作戦の足掛かりはかなり出来てきている。

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