ep.1 メガネを外してはいけない

 名前も知らない理想の美少女に突然の告白をされ、すっかり舞い上がった。

 帰り際に名前を聞くと、体操着のネームに指をさして教えてくれた。

「ほら。結城だよ、結城まゆら。忘れないでね、沖田我楽夢おきた・がらむ君」

 廊下で別れた俺は、翌日非ぬ噂が立てられる。


《沖田、とうとう二次元から戻れなくなった。妄想と会話する痛いヲタクにレベルアップ!》


 誰かが見ていたらしい。

 どうやらこのメガネをかけなければ、まゆらのことは見えないみたいだ。


 それはともかく、なぜだ。なぜ彼女は他の人に見えていないんだ? よくある異世界なのか?

 それは違う。だって、風景も何もかも現実と同じだ。そもそも異世界なんてナンセンスだ。某ラノベじゃあるまいし。

 もう一つの可能性は、平行世界パラレルワールドつまり異次元という仮説だ。これは世界だけではなくて、時間軸も含まれるがその線はないだろう。時間軸がズレているなら、何らかの違和感があったはずだ。確かにブルマ姿だったが、今でも売っているものだし。


 そんなことを一人でブツブツつぶやいているから、俺は益々キモがられた。


 そして昼食。パンを食べた後、人気のないところでぼけぇとしようとふらついていると、まゆらが現れた。

「あ、沖田君」

「結城さん、ちょっと」

「え?」

 手を引っ張り、急いで人気のない所に連れ出した。人に見られたらまた変人扱いだ。

 それらをすべて打ち明けると、まゆらは笑っていった。


「えっとね。たぶん、そのネメガネのせいだとおもう」

「だってこれ、ただのメガネだよ? 昨夜調べてみたけど、とくに怪しいものは……」

「私ね、実は、乙女ゲー大好きなオタクなの」

「そうなの?」

「引かないの?」

「どうして? 僕だって、エロゲ好きだし。今じゃ、女の子がそういうのやるのは普通だよ」

「良かった。でね、沖田君は、乙女ゲーのキャラクターなの」

「は?」


 今なんつった?

 俺が乙女ゲーの出演キャラだって?

 おいおい、ここは紛れもなく現実世界だろ?


「あのね、私の世界……。何ていえばいいのかな……、そっちから画面の外の世界をつなぐアイテムがそのメガネなの」

「画面の外って、……つまり君は乙女ゲーのプレイヤーで、ここはゲームの世界だっていいたいの?」

「そうなるかな」

「俺が二次元だなんて、そんなわけ」

「違うよ! 沖田君は三次元人だよ」

「じゃ、じゃあ……」

「私は、五次元人なの」

「まじかよ」

「その眼鏡は、五次元の映像を三次元に投影するメガネなの。こっちの世界じゃ普通の眼鏡だよ」


 放課後もう一度会って話を聞くとこういうことらしい。

 まゆらは乙女ゲーヲタで、彼女から見たら俺達三次元人はゲームキャラクター。製作者はいなくて、勝手気ままに動く三次元人たちを攻略することが目的。普段は夢の中でしか接触することはないらしいが、何故かこの異次元メガネを手に入れたことにより、俺だけは現実世界でまゆらと繋がれた。


「頭痛い……。自分でも何が何だか分からん」

「ごめんなさい。でも、沖田君のことが好きなのは本当なの! 信じてくれるかな?」

「ごめん、心の整理をする時間がほしい」

「そうだよね。じゃあ、今日はこれで。バイバイ」

「バイバイ」


 こんな理想の女の子、二度と出会えない。そんなのわかってる。

 だけど、本当の彼女の姿は全くの別物の可能性が高いんだ。

 どうして俺のことを好きになったんだ?

 ゲームキャラとして、抜くために選んだのか?


「え? まゆらのオナニー……。ああ、いかんいかん。ここは紳士であるべきだ……。だがしかし」

 俺は今夜、むちゃくちゃ右手がほとばしった。

 そして後悔した。

「あ、まゆらも俺のオナニー見てたんじゃね。うわぁぁぁぁ」

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