8点目 教師指導室②
「だけど、弘人の正義の中のみんなっていう言葉に弘人自身は入ってなくて、それで弘人はだんだん人っぽくないというか、機械みたいになってっちゃって…」
そして私が高橋に対し、一目置くキッカケとなった球技大会についても触れた。
「あの時からです。夏休み前の球技大会。あの日から弘人はおかしくなった。元々天然キャラだから多分みんなは気づいてなかったと思いますけどオレは痛いほど変化を感じたんです。弘人にとってあの後の夏休みは地獄みたいな夏休みだっただろうし…」
「地獄みたいな夏休み?」
「はい。オレだけが知ってます。弘人の地獄を。」
というのも高橋は弘人と夏休み中何度もサッカーの練習をしていたそうで、弘人の他の友達との接触が自分を除いてまるっきりなかったことから、自分のみぞ知る弘人の地獄だと断定的な言い方をしたのだった。
「弘人はこんなことを言ってました。」
「ヒーローって本当にみんなの笑顔のためかな?」
「ヒーローってミスするのかな?」
「ヒーローって独りぼっちなのかな?」
高橋の話では弘人は自己暗示をかけるかのように何度も何度も答えの出ない問いを続けていたのだという。それも夏休みの期間中いつ弘人と会っても斜め下の方を見つめたまま黙々とボールを蹴りながらも自分自身に問い続けたという。私は聞いてみた。
「高橋はどう思った?弘人に何か言ってやったのか?」
「…見てられなかったですよ。あんなに地獄のような時間を延々と過ごしてる友達になんて言ったらいいかわからなかったけど…」
ここで言葉を唾液とともに一旦飲み込みさきほどよりも静かな口調でこう続けた。
「先生は正義のヒーローだよって。みんなが笑っていられるように、弘人が笑っていられるように、先生は考えてくれてる。って、そう伝えました。」
ついさきほど自分自身に対する嫌悪感が沸点を超えたばかりの私には耳が痛かった。
「そしたら弘人の表情が少し明るくなってオレにとある提案をしてきました。」
「とある提案ってどんな提案だ?」
「失踪作戦です。」
「!?」
私はまだわかりきってはいないがことの全体像が見えてきた。頭の中の霧が少しずつ晴れていく中でもこの霧が完全に晴れることへの恐怖をシトシトと感じていた。
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