7点目 教師指導室①
「高橋、教えてくれないか?今日弘人とどうして会ってたのか、どこで会ってたのか、先生の何が弘人の失踪に影響したんだ?」
私は一刻も早く知りたかった。教え子の小学4年生相手に教えを乞うことへの羞恥心などまるっきり消え失せ、ただただ助けを求めるように聞いた。
「先生、正義のヒーローってどんな人だと思いますか?」
何故今その質問なのか、訳がわからなかったが私は高橋相手に意図がない状況などあり得ないことはわかっている。回らない頭で精一杯答えた。
「正義のために身を呈して戦う人のことじゃないか?」
「じゃあ正義ってなんですか?」
高橋が間髪入れずに聞き返してきた時、私は答えに詰まった。がすぐにこう続けた。
「信念を貫くことだ。」
高橋は表情を変えぬまま、弘人について語り始めた。
「弘人も、正義のヒーローになりたかったんです。」
高橋は過去形を強調して話していた。つまり現在は異なる考えを持っているということだろう。
「弘人は、ちょっと飛んでるように見えるけど誰よりも優しい子なんです。みんなには見えないところで弘人がやっていたこと。知ってますか?」
私はこれっぽっちの心当たりもなかった。面目も無いなかで小さく首を横に振ると高橋は話を続ける。
「まず、優馬ってみんなから嫌われてるんですけど、力は強いし、足も速いし、みんな逆らえないので…」
「待って待って!優馬はみんなから嫌われているのか?」
「オレはそんなことないけど、嫌われちゃってます。」
呆れるほど自分のことが嫌になった。確かに異様なくらい絵に描いたような平和クラスに安心感と同居して少しの違和感は覚えていた。ただまさか私の眼前で、また毎日のように一緒にいる児童たちのコミュニティの中でそんな人間関係のもつれがあったとは、一人の児童からのこの報告にこんなにも驚くとは、担任としてなんの言い逃れの余地もなく失格である。
「でも、先生の驚きは仕方ないんです。C組に起きているマイナスの事を見えないようにしてたのが弘人なので」
私の心を読み取ったかのようにこう続け、高橋は私に見えていなかった弘人の行いをいくつか教えてくれた。
優馬の教科書や上履きを盗んで隠す人がいたら、双方にバレないように元の位置に戻していたこと。
優馬や友達の悪口を言ってる子がいた時や友達同士が喧嘩をしそうな雰囲気になった時、優馬に強く言われて泣きそうになる子がいた時など様々な暗雲の立ち込めたタイミングでは、わざとトンチンカンな言動をして自らを見世物に笑いを誘い雰囲気を柔らかくしていたこと。
「弘人にとっての正義はみんなが笑っていられることだったんです。それで弘人は自分の正義を貫いてたから先生たちから見たらC組は平和だったかもしれないですね。だけど…」
言葉を詰まらせた様子で一瞬間が空きながらも高橋は話を続ける。
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