6点目 胸騒ぎの朝

いよいよ児童たちが続々と登校してくる。高橋とは目を合わせづらいなぁ。そんなことを考えていた。


朝のホームルーム。つい前日の邪険なムードはさっぱりと消え去りいつも通りの空間が広がっていた。いつもと違うことといえば弘人がいないこと、そしてこの日は珍しく高橋の姿もなかった。


高橋の欠席は学校に連絡が入っていない。なんとなく嫌な予感がしてたまらなかったが、ひとまずは踏むべきステップを忠実に職員室に戻り高橋の自宅に電話をする。


5回、10回とコール音が鳴るが応答がなかった。確か高橋は両親が他界しているため祖母と2人暮らしである。買い物にでも出ている祖母が高橋を寝かしつけて家を出た可能性も考えられるが、これだけの異質な出来事が重なっている状況では胸騒ぎが起こって収まらない。


もはや冷静になろうと思おうが思わなかろうが血の気の引いた肌の冷たさで、慌しさとはかけ離れた冷静沈着モードに入っていた私は、自分の力のちっぽけさを痛いほど感じながら児童たちにモノを教えるという教師になって以来最大の苦痛を抱えざるを得なかった。


それでも仕事は授業をすること。


私は淡々と授業を進めた。


3時限目の始まる手前のことだった。

教室のドアをゆっくり音立てて開け高橋が登校してきた。


「先生、遅刻してすみません」


私は今まで膨らむ一方であった負債が少しだけ軽くなったかのような感覚に安堵しつつもしっかりと教師を演じた。


「高橋、放課後職員室に来るように」


高橋は無言で頷き着席した。その様子は今までに見てきた高橋の表情のどれにも当てはまらない、喜怒哀楽の判定も不可能な妙な雰囲気でただならぬものを感じた。


放課後、高橋が職員室にやってきた。

私は無言の高橋に優しめの声色で聞いてみた。


「今日はどうした?遅刻なんて珍しいな、ご自宅にも電話したんだぞ?」


「すみません、弘人に会っていました。」


高橋の驚きの回答に周囲の職員まで一緒になって声をあげた。大沢先生はじめ大人たちが集まってきたところで高橋が部屋を変えて私と話したいと主張したため、生徒指導の別室へと移動した。


私と高橋を除いて誰にも声が聞こえない状況になったことを確認した高橋は私にこう告げた。


「先生、だから言ったでしょ?先生のせいだって。」

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