2点目 一目置く理由①

9月に行われる運動会への練習が加速したある日、ただ走るなりただ綱を引っ張るだけの体育の授業に飽き飽きした児童たちは普段であれば勉強の気晴らしに最適なはずの体育の授業を気怠さ混じりの曇り顔で満喫していた。


私ももう赴任して2年目に入る。ここは教科書を離れた臨機応変な対応を試みることで結果的に児童たちにとって運動会へ向けた今後の練習にも気が入るだろうと推測し、児童たちが大好きなサッカーを次の体育の時間に例外的に取り入れることにした。



翌日、いよいよ授業のチャイムが鳴る。私はこの曇天の下で児童たちの淀み顔が瞬く間に晴れるまさにその瞬間を楽しみに、また私のサプライズにも似た演出がバレないように発表の直前まで普段通りの声色と空気感を崩さぬよう徹していた。


すると突然、高橋が口を開く。


「先生、ずっと運動会練だけだとつまらないので何か違うことがしたいです!」


他の児童もそれに賛同した。


「サッカーしようぜ!サッカー!」


私はミニサプライズの失敗を受けて私の中に潜む心の奥底の悪魔がほんの束の間殺気立ったことに気がついたが、そんな自分を戒めすぐに温かな口調で提案を飲み込んだ。


「仕方ないな、他のクラスには内緒だぞ?」


また高橋だ。

高橋はいつも私の思考と何かリンクしている部分がある。


そもそも何故、私が高橋に対して一目置いていたか。遡ること夏休み前の球技大会。クラス対抗でチームに分かれ4クラストーナメント戦でサッカーをする大会があった。


周りの大人にとってはほんのお遊びのつもりであろうが、小学4年生にとってみればさぞ闘志漲る戦いで、各クラスのリーダー格少年たちは毎朝のように率先して普段発揮することのない統率力を惜しみなく使っていた。


そんな大マジな大会の優勝決定戦。私の持つC組はサッカー経験者の多いA組とあたり中々の試合運びで善戦を展開していた。


前後半20分ずつの後半残り5分、いまだ0-0のまま。そんな中でC組にまたとないチャンスが到来した。


C組のリーダー的な存在である優馬がディフェンスを振り切り前線までボールを運ぶ。

ゴール前の空いたスペースでサッカーが上手な不思議くん弘人がパスを求める。

自身で得点したい気持ちを抑え不本意ながらも優馬がパスを通す。


大チャンスの到来である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る