第14話 娘が可愛くて仕方が無いのは世界共通。そして人間が珍重する物って意外とつまらない物だったりする。
メアリーがドラゴニアで療養を始めてから一週間が過ぎた。健康状態もかなり良くなり、青白い顔色に赤味がかかり、彼女本来のかわいらしい顔に戻ってきた頃のこと。
ドラゴニアの城の門に一人の男が空から降り立った。言わずもがな、バードリバーの王、コルドである。大量のメアリーへの見舞いの品、そしてドラゴニアの王ジェラルドに対するお礼の品を風の力を借りて宙に浮かせている。それを見た門番の衛兵はその力に驚き、風使いになりたいと言い出す者まで出て来る始末だった。
「もし、本気で風使いになりたいと思われるのでしたら歓迎しますよ。ただ、修行は厳しいですがね」
バードリバーと言えども国民全員が風使いというわけでは無い。コルドの言う通り、風使いになるには非常に厳しい修行を経なければならないのである。王子のガルフですらコルドからすればまだまだ半人前、いや、コルド自身未だに修行を欠かさない日々を送っていると言う。今日の来訪の際に大量の荷物を携えたのも修行の一環なのかもしれない。
コルドはすぐにメアリーの顔を見たいという気持ちを押し殺してジェラルドに面会を申し出た。連絡を受けてデュークが駆けつけた。
「コルド様、いらっしゃるならいらっしゃるで一言連絡いただきましたら……」
前回同様突然の訪問に、デュークは十分な歓待が出来ないと嘆くが、コルドはお構いなしで豪快に笑った。
「いや、失礼は重々承知の上なのですが、連絡を寄こすより私自身が飛んだ方が速いもので」
悪びれもせず言うコルド。風使いとより戦士や剣士、肉弾戦の方が似合いそうな豪快さだ。
「それに私に歓待など無用。メアリーがお世話になっておりますから」
コルドは言うが、迎える側としてはそうはいかない。デュークはコルドを城内に通し、ある部屋の前で止まった。そこは広間では無く、周りを見ても生活空間の一部。どう考えても遠路遥々やってきた客人をもてなす部屋とは思えない。デュークは突然のコルドの来訪に気を悪くしたのだろうか?
「では、こちらでお待ち下さい」
デュークが扉を開ける前にノックをした。ノックをするという事は、中に誰かが居るかもしれないという事。中から小さな返事が聞こえた。女の子の声だ。デュークが扉を開けた。
「お父様!」
部屋に居たのはメアリーだった。デュークはコルドの気持ちを汲み、まずはメアリーの部屋へと案内したのだった。実は前回コルドが訪れた時も同じ部屋に通されているのだが、彼は娘の事で頭がいっぱいで広い城内の様子などまったく覚えていなかったのだろう。
「メアリー!」
娘の名を呼んで駆け寄るコルド。完全に娘の父親の顔になってしまっている。しかし、メアリーの反応は冷たかった。
「何しに来たの?」
「………………」
つれない言葉に悲しそうなコルド。もちろんメアリーも本当は嬉しかったのだが、ここで喜んでしまっては父は王の仕事をほっぽり出して何度も会いに来るに違い無いと彼女なりに考えた結果の態度なのだ。恐るべき十二歳である。
しばらくするとジェラルドが部屋に入ってきた。その途端、コルドは娘の父の顔からバードリバー王の顔に戻り、挨拶を交わし、お礼の品を渡した。ジェラルドは困った顔をした。
「貸し借り無しにしましょうと申し上げましたのに……そうだ」
ジェラルドは何か思いついた様で、デュークに耳打ちする。デュークは部屋を出て行くと、少し経ってから小さな箱を手にして戻ってきた。コルドがそれを受け取り、開けてみると中には大きな鱗が入っていた。魚の鱗にしては厚く大き過ぎる。これが竜の鱗なのか? コルドにデュークが答えを告げる。
「それが竜の逆鱗です」
ドラゴニアの王にとって竜の逆鱗とはどれぐらいの価値があるのだろうか? 自分が渡した礼の品は見合っているのだろうか? 言葉を失って考え込むコルド。
「それは私にとって単なる記念の品。貴殿が考える程高価な物では無いと思いますよ」
ジェラルドが言った。その言葉は本意なのか? それともコルドに気を使わせない為の方便なのか?
竜の鱗は生え変わる。ジェラルドは、生え変わりの際に抜け落ちた自分の逆鱗を記念に残しておいたのだった。人間で言えば抜けた乳歯を残しておいたぐらいの感覚だろう。
「これが……竜の逆鱗……」
そうは言われても、逆鱗どころか竜の鱗自体コルドにとっては初めて見る代物。その珍重ぶりにジェラルドはこそばゆい思い。何せ自分の身体の一部だった物なのだ。だが、それを言うわけにもいかない。なんとも微妙な顔になってしまうジェラルドだった。
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