4 rxo:bi(恐れ)
あえて、ティーミャから目をそらした。
彼女ももちろん、信用できない。
すでに彼女は一度、こちらに魔術をかけてまで騙そうとした。
まだ、リアメスの命令は生きているのかもしれない。
魔術に警戒していても、今度は色仕掛けをしてかけくる可能性もある。
さらに不安がふくらんできた。
そもそも、なにかおかしくはないか。
やはりこれは、罠ではないのか。
リアメスはあれだけ恐ろしい力を持つ大魔術師なのだ。
もしその気になれば「とっくの昔に自分のことを魔術的に洗脳していてもおかしくはない」のである。
というよりは、むしろそのほうが自然だ。
ならば、なぜそうしなかったのだろう。
リアメスの前では、自分は子供のようなものなのにすぎない。
彼女が自分をあえてエルナスに向かわせる理由はなんだ?
たとえば「エルナスに着いたと認識した時点で、こちらの精神を支配し、災厄の星を落とさせる」ような手の混んだ術が使われていない、という証拠はあるのか?
もちろん、そんなものがあるはずがない。
リアメスは信用できるか。
答えは否だ。
また二律背反に陥っている。
ある意味、魔術の本当に恐ろしいところは「果たしてどのような術が存在するかは、魔術師にしかわからない」という点かもしれなかった。
より正確にいえば「魔術師にもわからない」だ。
火炎魔術師は水魔術には疎いし、イオマンテの魔術師とメディルナのユリディン寺院の知識は、また別物である。
まず間違いなく、魔術師たちは自分たちの力を隠し合っている。
それがなにを意味するかといえば「魔術師を敵に回した場合、ありとあらゆる可能性を想定しなければならない」ということだ。
たとえば、リアメスは空間歪曲に対する結界を生み出す首飾りを作った。
だが、さらにそれを上回る術が存在しないとは、誰にも言い切れないのである。
こんな状況に長時間、置かれていれば、どんな強靭な精神の人間でも、心が壊れる。
イオマンテの魔術師たちは常にこんな気分なのだろう。
ノーヴァナスの気持ちが今、初めて理解できた。
彼は自分が強大な術を使えるがゆえに「見えない敵がさらに恐ろしい術で攻撃してくるかもしれない」と、怯え続けていたのだ。
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