12 resa era go+defe.saka ci so:lozo.(女はすごいな。命を作れる)
なにか変化が起きた。
あるいは、いままで食料や水でモルグズになんからの薬物を投与していたのを、グルディア側はやめたのかもしれない。
おそらくその薬物は思考や感情を鈍麻させる機能があったのだろう。
いままでリューンヴァスが沈黙していたのは、その影響かもしれない。
しかしもう、今のモルグズにはグルディアとしてはしっかりしてもらわねば困るのだ。
santu:r!(黙れ)
声はやんだが、これもいつまで保つかはわからない。
とにかく、俺に最後の復讐だけはさせてくれ、というのが虫のいい話だとはわかっている。
だが、またいつリューンヴァスに「体を奪い返させるかもしれない」ことを考えると、さすがに暗澹とした気分にもなる。
リアメスはこの件について、なにも言わなかった。
ということは、魔術を使ってもどうしようもないのだろう。
下手をすれば、この体から追い出されるのはモルグズのほうかもしれない。
morguthu.(モルグず)
いきなり、傍らのレクゼリアが言ったので、驚いた。
彼女はすっかり寝入っているものだとばかり、思っていたからだ。
duthonvato vaz cu?(私が嫌い?)
あっけにとられた。
彼女がこんな質問をしてきたのは初めてかもしれない。
彼女は自分のことではなく「この肉体」に惹かれているものと思っていたからだ。
むしろ、兄の肉体を奪ったモルグズは憎んでいると信じ込んでいたのである。
eto cu?(お前は?)
しばし彼女は考えこんでいた。
行為の最中はすっかり女の顔になるが、いまの彼女はどこかあどけなくさえ見える。
まるで困った子供のようだ。
互いに肉体に関しては知り抜いているくせに、精神に関してはまったく理解していない。
lakava foy tuthu.mogova foy tuthu.vekeva ci ned vam kokthatho.(私はお前うぉ愛しているかもしれない。お前うぉ憎んでいるかもしれない。私は私のこごろがわからない)
レクゼリアは女だな、と思った。
男は愛していなくても平気で女を抱ける。
しかし女は、愛してもいない男に抱かれているうちに情が移りることもあるようだ。
スファーナのときと似たようなことになりつつある。
ただ今回はある意味ではさらに厄介だった。
この肉体には本来の持ち主が宿っており、しかもレクゼリアはその妹なのだ。
いままではモルグズを憎み、リューンヴァスを愛していたようだが、もはやいまの彼女にはどちらがどちらなのか、わからなくなっているのかもしれなかった。
fova ba:botho.(私はあがちゃんが欲しい)
wo:za vomos dog cu?(ウォーザが望むからか?)
すると、レクゼリアがかぶりを振った。
lokyiva ba:botho dog.uwowthama vo:mo thelnath ned.(あがちゃんが好きだから。ウォゥざの望みはがんげいない)
ある意味、尼僧としてはとんでもない発言だが、たぶんそれが彼女の本音なのだろう。
相手は兄との子供だというのに。
それとも、彼女は「モルグズの子供」とみなすのだろうか。
そのあたりの心の整理は、まだレクゼリアにはついていないのだろう。
十八歳で出産とは現代日本ではかなり早いが、この世界では標準的、下手をすると遅いほうかもしれない。
たぶん、レクゼリアなら厳しくもしっかりと子供をきっちりと育てていくだろう。
いままで考えたこともなかったが、ある意味ではそれは「自分の子」、ということにはならないだろうか。
もちろんこの体はリューンヴァスのものだと百も承知ではあるのだが。
死んでも、この世界に子供は残るかもしれない。
奇妙な気分だった。
いままで、自分は人を殺すことしかできなかった。
どれだけの人を殺してきたか、わからない。
だが、女性は子供を生むことができる。
生命を作り出すことが出来るのだ。
それはどうやっても、決して男には不可能なことだ。
resa era go+defe.seka ci so:lozo.(女はすごいな。命を作れる)
すると、レクゼリアが微笑した。
erth ned.so:lo thekath reyth ta rethatse.(いいうぇ。命はおどことおんなぬぁでづぐる)
それから、レクゼリアに口づけした。
いままでの不毛な行為とは、なにかが違って感じられた。
人を殺すだけではない。
自分は人を生み出すことも、また出来るのだ。
優しく、そして激しく、二人は愛し合った。
単なる性欲処理の行為とはまったく異なる、神聖な儀式のように思える。
幾度も精を放った。
まだレクゼリアには子供は出来ていない。
だが、これから彼女は、自分の子供をはらむかもしれないのだ。
そして、彼女がその子供を産めば、命は次へと伝えられていくことになる。
死しか知らなかった自分にも、父親として子供に命を伝えることが可能かもしれない。
むろん、それが身勝手な妄想に近いことは理解している。
結局、この体は借り物にすぎないからだ。
たとえそうであっても、この体が次の命に繋がることには、意味があるように感じられた。
決して、祝福される子供ではない。
半アルグの子であり、さらにいえば兄妹の間で生まれた子なのである。
おそらく、もし子供が出来て生まれたとしてもその人生は決して楽なものではないだろう。
たとえウォーザの加護があったとしても、ウォーザの民は、内心、その子供を忌み嫌い、恐れるはずだ。
なぜ自分を産んだ、とレクゼリアや、父親であるモルグズまでも恨むこともあるだろう。
だが、それでもやはり、生きることは素晴らしいことだ。
この世界に来てヴァルサに、それをモルグスは教えてもらった。
今まで文字通り、地獄を這い回るような生をこの地で送ってきたが、改めてモルグズは思った。
どれだけ辛いことに満ちていても、艱難辛苦しかないように思えても、誰にでも素晴らしい、生きていてよかったと思える瞬間はある。
気がつくと、モルグズは涙を流していた。
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