第二十四章 lagt isxurinasiasa(再びイシュリナシアへ)
1 vomov gardo:r lektheriazo.(レクゼリアを守ってくれ)
エィヘゥグの目には、殺意にも似たものが宿っているのを、モルグズは見逃さなかった。
しかし、それでは困る。
これから先、レクゼリアがもし妊婦となったそのときには、エィヘゥグが彼女を守ることになるのだ。
決して彼は、剣の筋は悪くない。
ただ圧倒的に経験が足りていないのだ。
こればかりは、一夜づけではどうにもならない。
だがそれでも、モルグスは短い間にエィヘゥグを鍛える必要があった。
dubemo:r vanazo! ge:megum kilno:r!(名誉を忘れろ! 悪賢く戦え!)
まず、これを徹底的に叩き込むために、モルグズは一切、容赦をしなかった。
実戦では、エィヘゥグの生真面目な戦い方は命取りになると判断したからだ。
ただこれもいわば「リューンヴァスの技と知識を盗んだ」ようなものなのだが、罪悪感に駆られている余裕はない。
エィヘゥグはかつてのように、再びこちらを憎み始めている。
しかしそれは仕方ないことだ。
むしろ彼が強くなるなら、決して悪いことではない。
急所を攻撃する。
土を掴んで目に投げる。
敵が剣などの武器を意識している隙をつき、足を使って相手を転ばせる。
実戦ではどれもよく使われる単純な手なのだが、どうにもエィヘゥグはそうした手段すらも、卑怯だと見なしている節がある。
さらには相手を押し倒し、格闘している間に敵の鎧の狭間を短剣で突いて殺すことも、ごく当たり前の技術である。
剣と盾を持っている相手だから「剣と盾だけを武器と防具とみなす」のは、むしろそちらのほうがおかしい。
全身が戦士や傭兵にとっては、武器なのだ。
歯も爪も拳も肘も膝もすべてが武器なのである。
だから、意図的にそういう手段でエィヘゥグを文字通り、ぼこぼこにした。
戦闘には卑怯もへったくれもない。
最後まで生き残っていたほうが、正義なのだから。
わずか数日ではあるが、さすがにエィヘゥグもそれを理解したようだった。
むろん、彼にはノーヴァルデアを使ってはいない。
あくまでも普通の長剣で戦った。
さらに青銅剣の宿している精霊の力も、もっと活用してもらわねばならない。
レクゼリアから聞いた話では、エィヘゥグの精霊剣には稲妻の精霊、混乱の精霊、恐怖の精霊の三種類が封じられているという。
はっきり言って、そのすべてをエィヘゥグは使いこなせていない。
うまく混乱の精霊を使えば敵を錯乱させられるし、恐怖の精霊を用いれば相手は状況にもよるが、逃亡するかもしれない。
モルグズ一人が相手では経験が足りないと感じたので、ウーダスに頼んで練達のウボド騎士団の騎士とも戦わせてみた。
騎馬から降りても、ウボドの騎士はまるで容赦をしなかった。
だが、いい経験にはなったと思う。
エィヘゥグはウボドの騎士に恐怖の精霊を憑かせようとした。
愚かしいとしか言いようがない。
相手は、すでに感情をほぼ喪失しているのだ。
混乱の精霊は多少は効いたが、それでもまるで戦闘機械のようにウボドの騎士はエィヘゥグを殺しかけた。
もちろん分厚い鎧に守られているからウボドの騎士のほうが有利なのだが、それは短期的な戦いの場合だ。
長期戦にひきずりこめば、重装備の騎士は、鎧の重みで疲労する。
ただ、最終的にエィヘゥグがそれを学び、ウボドの騎士から逃げ回りながら相手を転ばせ、さらに稲妻の精霊を使って体の一部を麻痺させた末、首筋に青銅剣の切っ先を突き立てようとしたことで、さすがに彼も自分の成長を理解できたようだ。
どんな敵にでも通用する必勝法など、戦士の戦いには存在しないことを、学んだらしい。
敵の装備、練度、その他のさまざまな要因で、戦い方はいろいろとある。
そしてモルグズも理解した。
やはりウォーザは適当にエィヘゥグを選んだわけではないのだ、と。
彼は実戦経験でどんどん強くなる種類の戦士なのである。
とはいえ、たいていの戦士は「経験を積む前に死ぬ」のも事実である。
eto we+ce.kap erv we+ce.gow nato ci go+zun kilreysule.(お前は弱い。俺も弱い。だがお前は強い戦士になれる)
その言葉に、わずか数日前まで濁っていたエィヘゥグの目は、新たな力と輝きを宿していた。
vomov gardo:r lektheriazo.(レクゼリアを守ってくれ)
その言葉に、エィヘゥグは力強くうなずいた。
一皮むけた、のかもしれない。
ただ、まだ問題は山積みだ。
リアメスには新たにこれからの護衛の魔術師を頼んでいるのだが、なかなか選定が難しいらしい。
もっとも、これはモルグズの出した条件が厳しい、というのもある。
まず、イシュリナシアでも目立たない、平凡な外見を望んだ。
さらにはあの空間歪曲による接近戦に持ち込まれないよう、それを防御する力を保つのも必須条件である。
ただ、これはある種の護符でなんとかなるらしいが。
今一番、必要なのは水魔術師だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます