7 vekete tic.isxurinas ers vam ja:m.(わかっているはずだ。イシュリナスは私の敵だ)

 いきなり直球か、と思った。

 リアメスはかつて、神々の道具として使われてきたのだろう。

 だが、だからといってあまり彼女に同情するのもやはり、危険だ。

 道具として使われた経験があれば「他人を道具として使いやすくなる」のだから。


 dusonvav isxurinaszo.(俺はイシュリナスが嫌いだ)


 モルグズははっきりと言った。


 wob ers tom famles cu?(あんたの目的はなんだ?)


 リアメスがさきほどとき打って変わった、老獪な笑みを浮かべた。


 vekete tic.isxurinas ers vam ja:m.(わかっているはずだ。イシュリナスは私の敵だ)


 やはり油断ならない老婆だ。

 かといって、さきほどの言葉が同情をひくための演技だとも思えなかった。

 彼女はたぶん、真実を話していた。

 下手な芝居をうつよりも、そのほうが遥かに説得力があることを理解しているのだ。

 この人生経験は、あのノーヴァナスには存在しなかったものである。

 だが、はっきり言ってしまえば、モルグズはいまさら、リアメスやグルディア、あるいはウボド神に利用されても構わないと、考えている。

 お互いに利用し合う、というべきか。

 なにしろ利害はほぼ一致しているのだ。

 

 mxujav fog isxurinas zeroszo ta isxurinas zerzefzo.(俺はイシュリナス神とイシュリナス寺院を滅ぼしたい)


 eto eren reys.(お前はとてつもない男だね)


 そう言うと、リアメスは心底、愉快げに笑った。


 eto mig van.bac era rxa:fe nxal...(とても良いぞ。もし私が若ければ……)


 まるで若い娘のように、しなをつくってみせる。

 さすがにモルグズは苦笑した。

 これもリアメスの手なのかもしれないが、どうにもこの老婆は憎めない。

 ただ当然ながらリアメスは、もしなにかあれば平然とこちらを裏切り、見捨てるだろう。

 そしてこちらもその覚悟は出来ていることは、彼女も理解しているはずだ。


 magzuma so:ro tenato ci cu?(災厄の星は使えるか?)


 モルグズはうなずいた。

 とはいえ、やはりすでにだいぶ体力は落ちている。

 どうも馬車のなかでの食事でグルディア側は滋養強壮のためのさまざまな薬物などを混ぜたようだが、それでも全体に体調が悪いのは事実だ。

 もちろんそれは、数え切れないほどのレクゼリアとの交合にも原因はあったが。

 寿命は、もって数ヶ月だと思っている。

 あるいはもっと短いかもしれない。


 sitito ci magzuma so:rozo elnasule cu?(お前は災厄の星をエルナスに落とせるか?)


 エルナスはイシュリナシア王国の王都である。

 人口十五万という、セルナーダで最大の規模を誇る都邑である。

 ゆっくりとモルグズは首を横に降った。


 ers bagid.(それは駄目だ)


 wam ers cu?(何故だ?)


 リアメスは心底、不思議そうな顔をした。


 elnas ers isxurinas zersefma mans.(エルナスはイシュリナス寺院の中心だぞ)


 vekev li.gow ers bagid.mxujav fog isxurinaszo ta isxurinas zersefzo.now isxurinasia leksuya batsowa.(わかっている。だが駄目だ。俺はイシュリナスとイシュリナス寺院は滅ぼしたい。でも、イシュリナシア王国は違う)


 モルグスは言葉を続けた。


 varsa lokyiga isxurinasizo.(ヴァルサはイシュリナシアが好きだった)


 それで、リアメスも納得したようだった。

 彼女にとっては、イシュリナスもイシュリナス寺院も、そしてイシュリナシアという国もすべて敵なのだろうか。

 しかしモルグズにとっては、そうではない。

 敵はイシュリナスでありイシュリナス寺院でありネスファーディスだが、王国そのものには特に恨みもないし、ヴァルサが愛していた故国なのだから、あまりひどいことはしたくない。

 それにしても、と思った。

 いままで「種馬」として虚ろな生が続いていたせいか、新たな、そして最後の目標にむかって全身が疼くような高揚感を覚える。

 もう、旅の終わりは近いとどこかで理解していた。

 いずれにせよ、あと数ヶ月の命だ。

 ふいに、扉が開けられた。

 見ると、レクゼリアとエィヘゥグが戸口から、後ろのウボドの僧侶たちに押されるようにして部屋のなかに入ってきた。

 二人とも少し、困惑しているようだ。


 teba:r.(座りな)


 リアメスが何者か、二人とも理解しているようだ。

 恐ろしく緊張した様子で、二人はそれぞれモルグズの左右に座った。

 すっとリアメスが目を細める。


 yem polboto ned.(まだお前は妊娠してない)


 それを聞いて、レクゼリアは驚いたようだった。


 wam vekato?(なぜわかる?)


 era riames.ers to+pos cu?(私はリアメスだ。これで充分だろ?)

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