8 decsxas...tavav sav magzuma so:rozo.(千……災厄の星を試してみるか)

 era i:januce.(あの人は恥ずかしいんです)


 たぶんそれは、日本語の「照れる」ような意味なのだろうが、セルナーダ語だとまた別の表現をするのだろう。

 ただの女装少年ではないと理解してはいたのだが、やはりレーミスもわからない。


 gow nafav had magzartis ers mig jabce.(でも僕もあの魔剣はかなり危険だと思うよ)


 そんなことはない、と言いたいのに。

 だってあれはノーヴァルデアなんだぞ。


 mazagartis chudos tom tavtiga ta tarmaszo.(魔剣はあなたの体力と魂を吸っている)


 違う、と叫びたい。

 しかしそれを否定するのは難しいのが事実ではある。

 確かに「ノーヴァルデア」の力をかりてからは自分でも、なにかを奪われている感覚はあるからだ。

 だが、もしそうであっても、果たしてなにがまずいというのだろう。

 たとえ路傍で力尽きても、ノーヴァルデアが生きているのならばそれでいい。

 そこで怯えながらも、こちらを見つめているレーミスを見ていまさらながら、モルグズは察した。

 さすがに半アルグの性フェロモンは同性にまでは通用しないはずだ。

 それでもこの生意識にも思えた少年にまで、自分は愛されているようだ。

 ゼムナリア女神に以前、もててもてて困るか、と言われたのは単なる皮肉ではなかったようだが、もう笑うしかないだろう。

 自分が愛したものはみんな遠くに行ってしまうのに。

 ただ、いまはそれ以上に気にかかることがある。


 wob ers isxurinasia i+sxuresi cu?(イシュリナシアの騎士たちは?)


 途端にレーミスの顔がひきつった。

 彼は魔術で他者の動きを知ることにも長けているはずなのだ。


 i+sxuresi ers...(騎士たちは……)


 言葉を濁しているが、やはり騎士たちや王国軍が本気で動き出したのだろう。


 azim patca wob era cu?(彼らの数はどれくらいだ?)


 ers decsxas ant.(千くらい)


 本当に一千の軍隊をよこしてきたのか。

 たった三人……否、実質、モルグズ一人を仕留めるために。

 さすがにレーミスも細かい編成まではわからないようだが、明日の昼ごろにはこのあたりにやってくるらしい。


 decsxas...tavav sav magzuma so:rozo.(千……災厄の星を試してみるか)


 レーミスは絶句しているようだ。

 災厄の星を落とせば、その大きさにもよるが相当の破壊力になるはずだ。

 放射線などは発生しないが、威力でいえば地球の戦術核くらいにはなるかもしれない。

 ただ、そのためには問題も多い。

 まず大きさと被害程度がわからないのだ。

 あまり小さいと大気圏で燃え尽きる。

 しかし大きすぎても、今度はこちらも巻き添えをくらう可能性がある。

 さらにいえば、そう都合よく適度な大きさの小惑星がいまこの近くにあるとは限らない。

 

 zemgato decsxaszo cu?(千人、殺すんですか?)

 

 レーミスは別の意味で、怯えているようだ。

 エグゾーン信者が今更なにを、と笑いたくなる。

 彼に第二次世界大戦の話をしてやると、その顔が青ざめた。

 独ソ戦だけで双方あわせて二千六百万人の死者が出たといっても、なかなか信じようはしなかった。

 ここはあくまで前近代的な社会だ、ということである。

 近現代の戦争の凄まじさはやはり理解できないのだろう。

 もっともモルグズも知識として知っているだけの話ではあるが。


 gow hekiv tuz.(でもあなたが心配です)


 mende era ned.solov ci fa dew,tur te+sxu.(問題ない。俺は二、三年は生きられる)


 根拠のない話ではなかった。

 もしノーヴァルデアに生命力を吸われていたとしても、今日、明日じゅうに死ぬということは考えにくい。

 それでは、この魔剣そのものの存在価値がなくなるからだ。

 どれだけ強大な力をふるっても、そのたびに主人が死ぬのでは魔剣としては欠陥品だ。

 そして、明らかにさまざまな神々がこの自分を巡って蠢動を始めている。

 夢のなかでもそんな話を聞いた気がした。

 つまりしばらくは自分には利用価値がある、ということだ。

 そうした点を説明すると、レーミスも理屈では納得したようだ。

 それでも、精神的には動揺している。

 二、三年で死ぬ。

 いや、そこまで生き延びられるという保証もないのだが。

 しかし、まだ十数年しか生きていない少年には、それがひどく恐ろしいらしい。

 どれだけ魔術の天才であろうが、やはり子供だ。

 いま考えると、ユリディン寺院を相手に喧嘩をしかけたのも、豪胆だったからというより、相手を侮っていたのだろう。

 しかしいま、現実に常に命の危険を感じてこの少年は怯えている。


 mende era ned.(心配ない)


 この地にきてから自分は本当に変わった、と今更に思う。

 弱い者を見ていると、なんとなく守りたくなってしまうのだ。

 矛盾もいいところだった。

 確か俺は「死と破壊の王」であり「災厄をもたらす」者のはずなのに、とモルグズは苦笑した。

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