6 le:mis.mefnogo molgigmagzuzo.gow a:zen yas ned.(レーミス。モルギマグズを見つけた。だが刀身がない)
あっけにとられた、というのが正直なところだ。
禍々しい魔術印が無数に刻印された、柄と鍔らしいものがある。
だが、それだけだ。
wob ers cu?
つい言葉が漏れた。
肝心の、刀身がないのだ。
しかしもう、時間がない。
le:mis.mefnogo molgigmagzuzo.gow a:zen yas ned.(レーミス。モルギマグズを見つけた。だが刀身がない)
van! ers tems! (よかった! 本物だよ!)
レーミスはモルギマグズに刀身がないことを、知っていたようだ。
スファーナが苦痛をこらえるようにしながら笑った。
vo tanjuv sav! eto go+defe!(私たちは逃げましょうっ! あなたはすごいっ!)
だが、そう言われても高揚感はまったくなかった。
レーミスやスファーナにも助けられたが、なんだかまるで詐欺にでもあったようなきがするのだ。
刀身のない魔剣。
そんなものに、意味はあるのか。
いや、あるかもしれない。
あるいはこの魔剣は魔力で一時的に刀身を生成するかもしれないのだ。
たとえば闇槍の呪文は「闇そのものを物質のようにする」という信じられないものだ。
それと同じように、なにかを刀身に変える、というのはありうることだ。
morguz,agamzato zev cod artiszo.(モルグズ、この剣を構えなさい)
gow a:zen ers...(でも刀身が……)
mende era ned.(問題ないわ)
狐につままれたような気分で、長剣を構えたその瞬間、足音が聞こえてきた。
すっと背筋が冷えていく。
間に合わなかったようだ。
そうとばかり思っていたのに、こちらにむかってきた魔術師たちは、モルグズの持っている剣……より正確には、鍔の部分が見えているだけなのだが……を見た瞬間、踵を返して逃げ出した。
一体、これはどういうことなのだ。
わけがわからない。
wam yuridresi tanjugu cu?(なんで魔術師たちは逃げたんだ?)
zemgas re fog ned teg.(殺されたくないからよ)
急に出来の悪い喜劇の役者にでもなったような気がした。
傍からみれば、いま自分の姿は相当に間抜けなはずなのに、魔術師たちはみな、こちらに近寄ってこない。
彼らの恐怖は本物だった。
近づくのが恐ろしいのなら、遠距離から攻撃呪文を使ってもよさそうなのに、それもない。
まるでモルグズそのものが、動く災厄と化したかのように。
いや、この推測は当たっているのではないか。
すでにモルグズの存在そのものが、この魔剣を手にしたことで、ある種の災厄なのだとしたら?
たとえば近づく者はそれだけでとんでもない不自然な大怪我をしたり、「たまたま」心臓が止まったりする可能性もある。
しかしそれでは、スファーナが平気な理由がわからない。
右足の膝下を失った彼女はモルグズにもたれかかってはいるが、足以外に特におかしなところはない。
それにしても、すでに出血が止まっているのは、恐るべき治癒能力といえた。
頭ではわかっていても、こうしてスファーナの姿を見ていると、寒気がする。
だが、自分は魔術師たちにとっては「もっと恐ろしい存在」に見えている可能性が高い。
まるで疫病神にでもなったようだ。
スファーナが平然としているのも、彼女がエクゾーンの尼僧だからというが関係しているのだろうか。
よくわからないまま、再び魔術エレベータを使って一階まで降りた。
誰もいない。
信じがたいことだが、おそらく魔術師たちはみな逃げたのだろう、とぼんやりと思った。
自分は、そしてこの剣は、それほど恐ろしいものなのだろうか。
追手すらかからないのは、やはり魔術師たちが恐怖しているから、としか考えられなかった。
どう考えもおかしい、と思ったそのとき、路地の上に金色の光がふわふわと浮いているのが見えた。
相手の正体はわかっている。
ナルハインだ。
(やあ。まいったね。実際、僕は今、とても困っている。手にしてはならないものに、手にしてはならない剣がわたってしまった)
(今回も邪魔してくれたが、残念だったな)
それでも勝利した、という感覚はまったくなかった。
(以前、君に忠告したよね。ネスの都で。あのままネスの都を出ろと。今回も言わせてもらおう。君はいますぐ、このままメディルナを出るべきだ。もうその魔剣からは逃げられないが、それは仕方のないことだ)
(ふざけるな。ノーヴァルデアが……)
(彼女は死の女神の尼僧だ。そして、いまこの世界に存在すべきではない)
さすがにかっとなった。
(あんたが神でも、俺はあんたの言葉を許さない)
(君は心のどこかで気づいてるんじゃないかな。ノーヴァルデアが死の女神への信仰を失うことはない。そして彼女は、君を愛している。だがその愛は、君の父性愛とは別物だ。僕は親切心から言っている。ここで彼女と別れなければ君はまた愚かな過ちを繰り返す)
(まさかあんたに愚かと言われるとはな)
(少なくとも僕は自分の愚かさを知っている。実際、僕は君をネス伯に幽閉させたままのほうがよかったと今は考えているくらいだ。君は僕の想像を超えていた。いまの君は残念ながら、このセルナーダの地にとっては、存在そのものが災厄なんだよ)
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