6 va vekava.to lakato da morguzuzo.(私はわかっている。お前はモルグズを愛し始めている)

 モルグズは傭兵が実際にどんなものかは知らないが、彼らのきつさは想像が出来た。

 それでも、どんな社会でも現実の辛さを知らない若者たちにとっての、憧れの職業は存在する。


 erv otsgas.(俺はオツガスだ)


 otsgasは「勇敢、勇猛、勇気」という意味の名詞なので子供が勇敢であれ、と願った名前なのだろうが、どうにも話を聞いていると居心地が悪い。


 kilnote sud yuridgurfle cu?(あんた、魔獣と戦ったことはあるか?)


 zemges zu:rabalwoszo,(鱗熊を殺したな)


 それから興奮したオツガスを退散させるのに苦労した。

 この世界の若者は、現代日本よりも夢や希望に満ちているようだ。


 eto tu+kon.(お前は罪深いよ)


 santu:r(うるせえ)


 さすがにスファーナの言葉がうるさく思えた。

 率直に言って、この狭い空間に押し込められてから彼女への感情は悪化している。

 自分は聖人ではないと、改めて思い知らされた。

 今も、結局、スファーナがなぜこちらに同行しているかと考えると、パラノイアめいているが彼女が敵対勢力の見張りではないか、とすら思えてくる。


 wob kozfiv cu?(俺は何を信じればいいんだろうな?)


 sxalva ned.(知らないよ)


 呆れたようにスファーナが告げた。


 gow wam alvot medirnasa cu?(だけどなんであんたはメディルナに行くの?)


 一番、痛いところを突かれた。

 それはノーヴァルデアのため、というしかない。

 しかしさらに深く考えれば「ゼムナリア女神のため」ということになるのだ。

 この矛盾にはとうに気づいていた。

 しかし我ながら、本当に馬鹿みたいだ。

 ゼムナリアがそれを求めているのであれば、正反対の方向にいくべきだろうに。

 かつてと違い、死の女神とはたもとをわかったはずなのに、いまだにゼムナリアとの縁はきれない。

 ノーヴァルデアがいるからだ。

 確実に死の女神は、ノーヴァルデアをモルグズを操る道具として利用している。

 忌々しい話だが、この考えは間違っていない、と思う。

 もしノーヴァルデアを失ったら、と思うとたまらなく怖い。

 すでに一度、ヴァルサを守れなかったというあまりにも苦い経験がある。


 tufa okedito no:valdeale.(あんたはノーヴァルデアに頼りすぎ)


 いつのまにか図々しくも二人称の親称までスファーナは使うようになっていた。

 かつてはヴァルサだけが、このtufaという言葉で呼んでくれたのだ。

 この世界の人間は、みなずけずけとものを言う気がする。

 現代日本の、やたらと空気を読む文化がかつては面倒に思えたものだが、まさかあんな社会が羨ましく思えるようになるとは。

 これはセルナーダ語という言語のあり方と決して無関係ではないだろう。

 もっとも、異常なほどに対人モダリティの発達した日本語が生み出す文化も地球では特殊なのだが。

 言葉と文化は、互いに影響しあうものである。


 jod ers mig van.(それはとても良いことだ)


 モルグズに頼られていると言われたノーヴァルデアは満足げだが、彼女にしてみれば当然なのだろう。


 vo lakav tsal.morguz ham okedis sup vaz.(我々は愛し合っている。モルグズはもっと私を頼るべきだ)


 すると、スファーナがつぶやいた。


 to eto magben.(お前たち、気持ち悪い)


 聞き間違いかと思ったが、実際にスファーナは顔を歪めていた。


 bamolum okedito tsal to:g.ers ned ku+si.eto du+kusi.(お前たちお互いに頼りすぎ。普通じゃない。お前たちは異常よ)


 さすがにかっとなった。

 これが、スファーナだ。

 三百年というあまりに長い生を生きてきたがゆえに、逆に彼女の精神はかなり歪んだ、不安定なものとなってしまっている。

 それはスファーナがいままで凄まじい経験を経てきたこととも無縁ではないだろう。


 meva sud a:mofe reysizo sagles jenma tel.aln ers du+ksi.ta aln du+kum zemgo.(私は今のお前たちみたいな連中をたくさん見てきた。みんな異常だった。そして異常に死んだ)


 ふいに、ノーヴァルデアの目に暗い輝きが宿った。


 to zemgato re fog cu?(殺されたいのか?)


 途端に、スファーナが悲鳴をあげた。


 menxava!(ごめんなさい!)


 やはりスファーナを信用しすぎるのは良くないかもしれない。

 彼女の人格の不安定さは、もう治ることはないのだ。

 三百年の生を経てきた代償が、この人格なのである。

 ふいに、ノーヴァルデアが信じられないことを言った。


 va vekava.to lakato da morguzuzo.(私はわかっている。お前はモルグズを愛し始めている)

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