8 ca:ja+ga?(???)

 三匹のアルグを殺したのはわずかな時間ではあったが、その間にも他の仲間たちも反撃を開始していた。

 あまりにもアルグの悲鳴がうるさく、かつ戦闘に集中していたせいか法力の祈りの声は聞こえなかったが、アースラめがけて飛びかかろうとしていた空中のアルグたちが、四匹ほど一瞬にして炎に取り巻かれる。

 あまりの眩しさに、目が眩みそうになったかと思うと、表皮と毛皮がほぼ炭化したアルグたちがそのまま落ちてきた。

 さすがに全身が消し炭、ということはないようだが、それでもみな絶息しているのは確かなようだ。

 毛皮の焦げる悪臭がつんと鼻をついた。

 クーファーは火炎と破壊の神だけあり、法力もなかなか凄まじい。

 一方、ラクレィスは呪文の詠唱は行わなかったようだ。

 これは、賢明なことといえる。

 ラクレィスには、戦闘時における魔術師にとっての最大の弱点は、その詠唱時間だと教えられていたからだ。

 どれだけ強大な術を行使しようとしても、呪文が完成しなければ、術が発動する前にあっさりと殺されてしまうということも、ありうるのだ。

 力ある魔術師は絶大な力を持つが、防御は弱い。

 接近戦を避けるというのは、魔術師にとって戦闘の基本なのだ。

 その点、モルグスのように接近戦も行えれば魔術も使えるというのは、かなり有利なのである。

 どんな状況であれ、臨機応変に対応できるからだ。

 ただしそれでも、一瞬の判断の過ちが即、死に繋がることに変わりはないが。

 ラクレィスはどうやら、いつも身につけている魔術の品を発動させたらしい。

 首に下げた黒曜石の首飾りから、いきなり漆黒の槍のようなものが出現した。

 闇魔術師の間ではもっとも一般的な攻撃呪文である「闇槍」だ。

 ただ、さほど威力はないらしく、すべての槍はアルグに命中したものの、みなを即死させるというわけにはいかなかった。

 一匹は頭蓋を貫かれたらしくあっさり死んだが、残り二匹は物質化した闇という不可思議なものに貫かれながらも、まだ生きていたのである。

 とはいえ、体の動きがおかしいのは「麻痺」の魔術印も組み込まれているためだ。

 この魔力にはアルグたちも簡単には抵抗できなかったらしい。

 ラクレィスは至極、冷静な動きで、大地を這う二匹のアルグの首筋を次々に硬い革靴で踏みつけていった。

 アルグは人間と似ているため、当然、急所も同じようなものだ。

 頸骨を砕くのは、確実に相手を殺すための最も一般的な方法だった。

 これで都合、十匹のアルグを倒した計算になるが、まだ森の奥からはいろいろな声が聞こえてくる。


 ca:ja+ga?


 nadva:g.


 agsxa:gig.


 理屈ではわかっていたが、それでもモルグズはまたぞっとさせられていた。

 彼らが「会話をしている」と理解してしまったからだ。

 相手はただの凶暴な獣ではない。

 法力や魔術まで使う、知性を持つ種族なのである。

 現に、謎の精霊に襲われたノーヴァルデアは、まだガスティスになんとか押さえつけられているが、それでも手足をじたばたさせている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る