2 era mig mo:yete,urja li.(とても可愛いね。彼女は嫉妬してる)
一応、そこそこ魔術を覚えた身としては重要だとは思うのだが、ラクレィスもそのあたりをうまく説明できていないのだ。
魔術を使うと、心身ともに集中するので披露する。
それを「魔力を使う」と表現することは、魔術師の間でも一般的らしい。
しかし魔術の道具のなかには、それを肩代わりするようなものもあるらしいのだ。
そのあたりで魔術師の間でも「魔力」に関してはいろいろ論争があるようだが、一つだけ確かなのは「魔術師は無限に呪文を使えるわけではない」ということだ。
やはりある程度の休息などが、必要になるらしい。
当然、強力な魔術を使えば心身の疲労がたまるため、限界もある。
ラクレィスいわく「使い慣れればあとどれだけ呪文が使えるか、だいたい感覚でわかる」ということだが、まだ魔術師初心者としてはそのあたりが実感を伴っていない。
ただ、この「旅の仲間」であれば、自分はむしろ戦士として機能したほうが効率が良いだろうとは思っているが。
そう考えるとますますゲーム的ではあるが、この世界の生々しさはなにかが違う。
どんなに強い戦士であっても、少し打ちどころが悪ければ即死する。
リアルな世界というよりは「現実に魔術や法力などを持ち込んだ世界」と表現するのが、たぶん正解なのだろう。
そして魔術や法力、神々の介入などで結果的には、いかにもファンタジーな世界となっているのだが、良くも悪くも現実的すぎる。
例えば、今は頑健なガスティスが背嚢にいろいろな食料や水を詰めているようだが、かなりきつそうだ。
さらにいえば、ノーヴァルデアは苦痛には耐性があるらしいが、体が子供のそれなので限界を迎えつつあるように見える。
no:valdea.tom tavma su:je era cu?(ノーヴァルデア。お前の体の状況は?)
mende era ned!(問題ないっ!)
あの冷静なノーヴァルデアが声を荒げている時点で、嘘だとわかる。
yosxuv tuz,(俺がお前を背負う)
しばしノーヴァルデアは困惑していたが、さすがに体力の消耗には勝てないらしく、言った。
va vekeva.(私は理解した)
実際に背負った少女の体は、驚くほどに軽かった。
ラクレィスとアースラは、苦笑めいたものを浮かべている。
さすがにそれを察したのか、ノーヴァルデアは気まずそうに言った。
aju:r,moguz.(歩け、モルグズ)
やれやれ、とモルグズは思った。
これが本当にあの、イシュリナスの僧侶や騎士たちをあっという間に法力で殺した恐るべきゼムナリアの尼僧なのだろうか、と。
あまりにも、彼女は偏っている。
しかしそれは、この一同、全員に言えることでもあるのだ。
誰も彼もが、まともな社会から外れている。
ただ、黙々と荷物を背負ったまま歩き続けるガスティスだけは、よくわからなかったが。
たしかno:l、虚無という概念にやたらとこだわっていた気がするが、他の「仲間」に比べると、彼のことはあまり理解できていない。
しばらく森の中を歩いているうちに、しだいにあたりが薄暗くなってきた。
そろそろ、野営の支度をするべきなのだろうか。
ただ、果たして自分たちが正しい方向を歩いてきたかも、実はわからない。
自信満々といった様子のアースラのあとを追いかけてきただけなのだ。
とはいえ、ラクレィスはさすがに、そのあたりのことは考えているだろう。
ある意味では、彼のことをこの仲間では一番、信頼している。
魔術師の師匠、ということでもあるが、人間的にも信用できる気がするのだ。
jen, vo fu:wuv sup.(今、我々は休むべきだ)
ラクレィスが、茜色の光に包まれつつある森のなかで言った。
今更ながら、腐葉土や樹木の放つ強い香りを意識する。
ya:ya.(そうだね)
アースラもうなずいた。
puwu era te+jis.(きゃうそくは、大事だ)
相変わらずのグルディア訛りではあるが、意味はわかる。
モルグズは背中から、ノーヴァルデアをおろした。
fuwu era te+jis.(休息は大事だ)
ふとノーヴァルデアの言葉に違和感を覚えた。
アースラの言葉はグルディア訛りではあったが、それをわざわざ言い直す必要はあるのだろうか。
アースラが来てから、ノーヴァルデアは少し奇妙な気がする。
ふと、ラクレィスが耳元で囁いてきた。
minjabito no:valdeale.(ノーヴァルデアに用心しろ)
意味がわからなかった。
彼女は仲間のはずではないのか。
それとも、いまだに自分はゼムナリア信者ではないので、仲間として信用されていないということなのだろうか。
no:valdea era resa.ham nafa:r.(ノーヴァルデアは女だ。もっと考えろ)
ラクレィスの言葉が、信じられなかった。
女といっても、彼女は子供のまま成長が止まっている。
一体、なにを用心して、なにを考えろというのか。
やはり、このセルナーダの地の人間の思考は、地球のそれとなにか根本的に異なっているのかもしれない。
それから野営の支度をしたが、やはりノーヴァルデアにも避けられているように思える。
なにかゼムナリアの宗教的な禁忌に、知らずに触れてしまったのだろうか。
ついとアースラが近づいてきた。
era mig moyete,urja li.(とても可愛いね。彼女は嫉妬してる)
嫉妬、だということは間違いない。
だが、なにを嫉妬しているというのだろう。
mibiya tuz reys tus,eto za:ce reys,ha!(彼女はあんたを男として見にゃしてるんだよ。悪い男だね!)
アースラはどこか楽しげに言ったが、こちらとしてはなんとも言い難い。
率直にいえば、迷惑ですらある。
確かにノーヴァルデアには同情はしているが、彼女との恋愛など考えられない。
なにしろ外見が子供なのだ。
そしてヴァルサが、いるのだから。
いまだに彼女の存在は、モルグズにとってあまりにも大きい。
失礼な話だが、昨夜、寝たアースラのことなどヴァルサに比べれば比較にもならない。
すっと、アースラが目を細めた。
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