12 gurudia idekt(グルディア訛り)

 tabzay、正確にはtavzayという言葉を聞くと、どうしてもヴァルサのことを思い出してしまう。

 彼女は娼婦ではなかったのに。

 一方、アースラはあっさりとなんでもないことのように過去を打ち明けた。


 bam madsa kap tabzay,unpe zayigab tabzo decdew a:jsunxe ot.erig qu+si.dobloba honef to:bsnxe.(わだしの母親もしゃうふだった。ふぁじめてがらだを売ったのは十二のときだよ。それがぷつうだった。わだしがぞたっだのはそんなまぢだよ)


 寝物語に自分はなにを聞いているのだろう。

 vとfはほぼbとpに変化しているが、音が強くなるのは音韻変化では珍しい。

 kとcもqと化している。

 ただ、nがdとなっているのはやはりアクセントも関係しているようで、nの音はまだあちこちに残っている。

 

 ers bazce ned zemtab ya: tu:rxale.nedigab honep to:bsupo.rek rendogab a:mope to:bsuzo.sxalto ubodozo cu?(道に死だいが転がってるのも珍しくない。そんなまぢから出だんだ。それからたくしゃんのまぢをまわったよ。あんた、ubodoは知っているかい?)


 ウボド。なんだったろうか。


 ubodo ers gurudiama gardozeros.ubodoma zereys yujugu.pozuto boy ga:nupo zanqato nxal i+gaquzo.(ウボドはグルディアの守護神だよ。ウボドの僧侶は言った。お前も感じゃうをうじなえば苦悩から解ぽうされるって)


 それにしてもこの世界にはろくな神がいないな、とモルグズは思った。


 qu+sin reys zertos ned ubodozo.ers mi:pe isxuridasiares zertos ned isxuridaszo.(ぷつうの人たちはウボドを信仰しない。イシュリダシア人がイシュリダスを信仰しないのとおだじだよ)


 それを聞いて、驚いた。

 イシュリナシア人はみなが熱心なイシュリナスの信者ではないらしい。

 国名になっているくらいだからみなイシュリナスを信仰していると思ったが、違うようだ。

 しかしいま考えてみれば、それもうなずける。

 たとえば農村では実りの神が崇められていたが、そのなかにイシュリナスの名はなかった。

 ヴェーヴィルスの街にも、やはりイシュリナス寺院は存在しなかったのだ。

 だとすると、あのときヴァルサに石を投げたものたちのうち、どれほどがイシュリナスの信者だったかも疑問だ。

 ひょっとするとイシュリナスは一部の貴族や騎士たちが信仰している程度の神なのかもしれない。

 人々は、その尻馬にのって、信者でもないのにヴァルサに石を投げて、殺したのだ。

 おかしな笑みがこぼれた。


 ubodo ers ga:nu ta u:bodima zeros.ubodores ers rxo:bin.capsos ers ned zanqes i+gaquzo dog.zereys ers qedq zemtab,(ウボドは苦悩と絶望の神だ。ウボド信者は怖いよ。感じゃうをうじなったからぴょうじょうがないんだ。僧侶は死だいみちゃいだし)


 この地にあるのは現世利益的な宗教ばかりだと思っていたので、ウボドのような人々の救済を目的とする神は珍しく感じられる。

 しかし苦悩と絶望から逃れるための手段が感情を失うこと、というのは確かにぞっとしない話だ。


 ubodoresa tebega ned hxufa re reysile.pikuba ned aldumetszo i+gaq era ned teg.(ウボドの女信者は男におしょわれても抵抗しにゃかった。感情がないからなにみょ感じないんだ)


 それは、生きているというよりは死人のようではないか。


 tabzay,uldons,ja:bires,honep reys zertos ubodozo.ta alnureys pozus ga:nu ta u:bodipo.abogab qod judniq yatmiya.ba asroba sup aldumetszo.aldureysuzo.dog ba naba qu:fa:ma zeresale.(しゃうふ、老人、病人、しょんな連中がウボドを信仰する。そしてみんな苦悩と絶望からかいぽうされる。あだしはきょの世は間違っているとおぼった。あだしたちがあらゆる物を、あらゆる人たちを焼くべきなんだ。だから、あだしはクァーファーの尼僧になっだ)


 途中で論理の飛躍はあるが、だいたい彼女がクーファーを信仰する理由はわかった。

 娼婦として生まれ、貧困のなかで育ち、救済を求めるものが動死体のようにうつろになっていくさまを見れば、この世界が間違っていると考えるのも理解はできる。

 ホスに憑かれているわけではないが、やはり彼女もある意味、狂っているのだろう。

 この世界は狂信者だらけなのか。

 自分がたまたまそういう連中に出くわしただけのか、よくわからない。

 なんとなく、寝るのが怖い。

 かつて求めたぬくもりとは違うものが、いまモルグズの腕のなかにある。

 ぬくもりというのには、あまりにも熱く、こちらまで火傷してしまいそうだ。

 俺は、なにをしているのだ。

 そんなことを考えながら、気づくと眠りの世界に引きずり込まれていた。


 van fo+sel.(おはよう)


 目を醒ますと、子供の顔が上にあった。

 否、子供のように見えるが彼女はアルデアと同い年のはずである。


 van fo+sel.(おはよう)


 なぜか、ノーヴァルデアの眉間には深いしわが刻まれていた。

 彼女がこれほど感情をあらわにすることは、かなり珍しい。

 なにかあったのだろうか。

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