12 vam tav sxalva so:lo ers ci+tso.mavi:r(私の体は生が苦痛であると知っている。見よ)

 わけがわからないことだらけだし、あのナルハイン神が言っていたのが彼女たちのことだというも気になる。

 それでも、ヴァルサのためなら生き延びたいと思っている自分がいる。


 kozfiv tom yurfazo.(俺はあなたの言葉を信じる)


 気がつくと科白が勝手に出ていた。

 明らかにヴァルサは動揺し、怯えている。

 死の女神の尼僧とかかわり合いになることそのものが、彼女にとっては信じられないようなことなのだろう。

 それは、さきほどの街の人々の言葉を聞けば理解できる。

 おそらくゼムナリア信者は、手段を問わず、人を殺すことを目的としているのだろう。

 一体、どうすればそんな神の信者が生まれるか、よくわからない。

 地球での自分のように生まれついての殺人者かもしれないが、どうもこのゼムナリアの尼僧は違う気がする。


 vam marna era no:valdea.(私の名はノーヴァルデアだ)


 相変わらず口ぶりは丁寧なのが、かえって不気味である。


 va sxalva tom marnazo.vam zerosa etiga val.(あなたたちの名前は知っている。我が女神が私に教えた)


 それを聞いて、ヴァルサが絶句したようだ。


 wam....(なんで……)


 vam zerosa rxumonoga morguzma tarmaszo ti+juce judnikpo.jod ers melrus teg.(我が女神がモルグズの魂を別の世界からrxumonogaした。なのでそれは当然だろう)


 他のセルナーダ語話者なら省略しそうな主語までいちいちきっちりと発音するのは、彼女の口癖のようなものなのかもしれない。

 おそらくrxumonogaの不定形rxumonorは、呼び出す、召喚する、といった意味だろう。

 

 gow narhan isxurinasma i+sxuresi martos del tuz.to tudato re fa foy azitse.(だが、愚かなイシュリナスの騎士たちがあなたたちを追い続けている。あなたたちは彼らにより捕らえられるだろう)


 tudav nxal azel cu?(俺が彼らに捕まったなら?)


 なぜか一瞬、ノーヴァルデアが眉根を寄せた。

 いままでで唯一の、感情表現らしいものだ。


 to zavasum zemgato re fa azitse.zemnariares zavasum zemgas re.(あなたたちは絶対に彼らによって殺される。ゼムナリア信者は絶対に殺される)


 改めて肌が粟立ってきたが、こんな危険なカルト宗教のようなものに対してなら、そうした処置もやむをえないだろう。


 cod ers mig mxuln.zemnariares fozus reysizo ci+tsopo.so:lo ers ci+tzo teg.(これはとても奇妙だ。ゼムナリア信者は人々を苦痛からfozusする.生きることは苦痛なので)


 だんだん、ゼムナリア信者の思考が理解できてきた。

 彼らはたぶん、生そのものが苦痛であると考えている。

 だから殺してしまえば、苦痛から解放される、というのが彼らの教義なのだろう。


 so:lo ers ci+tso.(生は苦痛である)


 うつろな瞳でノーヴァルデアはこちらを見た。


 to kap aboto foy so:lo ers ci+tso cu?(あなたたちも生は苦痛だと思うだろう?)


 頭のなかが熱くなるのがわかった。

 自分が激しく怒っていることに、どこかでモルグズは気がついていた。


 zacdotum kati:r ned!(勝手に決めるんじゃねえっ!)


 だがゼムナリアの尼僧は、まったく動じた様子はない。

 むしろvarsaやsakuranabeのほうが怯えていた。


 so:lo ers ci+tso? aboto ers yu:je.gow,reysi kap yas wons ti+juce na:fa ko:radzo! tom na:fa yatomiya!(生は苦痛だ? お前が思うのは自由だ。だが、別の考え方をする連中もいるんだよ。お前の考えは間違っている!)


 jod ers mxuln.to zemgate tic a:mofe resazo ti+juce yudniknxe.(それはおかしい。お前は別の世界でたくさんの女を殺したはずだ)


 絶句した。

 ノーヴァルデアの言っていることは、間違っていないからだ。

 何人も殺した。

 ある意味では、ゼムナリア信者よりひどい。

 自分の身勝手な欲求を満たすために、女たちを殺し、あげくに両親まで殺したのだ。

 狂気の論理とはいえ人々を救済するつもりで殺人を犯しているゼムナリア信者のほうが、まだましだ。

 さらに最悪なのは、今のをヴァルサに聞かされてしまったということだ。


 vis,,vis yatmigiv.ti+juce judnikma vis aln yatmigiv.(俺は……俺は、間違っていた。別の世界の俺はなにもかも間違っていたんだ)


 to yatmito ned.to se+gxon wente fen zo ti+juce judniknxe.to wento sup mi:fe wognozo cod judniknxe.(あなたは間違っていない。あなたは正しいことを別の世界でした。同じことをこの世界でするべきだ)


 死の女神ゼムナリアが自分を多くの地球人から選んだ最大の理由は、たぶんこれだ。

 かつて多くの女たちを殺した殺人鬼だったからなのだ。

 そして彼女は、自らの僧侶や信者を使い、この世界でも同じことをさせようとしているのだ。


 vam tav sxalva so:lo ers ci+tso.mavi:r(私の体は生が苦痛であると知っている。見よ)


 淡々と告げながら、ゼムナリアの尼僧は衣服を脱ぎ始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る