11 to eto reysi vam zerosa yujute val cu?(お前たちが我が女神が私に告げたものたちなのか?)
(傷つくなあ。君たちが勝手に僕のことを、神とか呼んでいるだけでしょう? そういうのはsabetsuっていうらしいよ、他の世界からきた人はやっぱり面白いよね。僕らと考え方が違うから)
(いい加減にしてくれ、ナルハイン!)
(えー。僕、なにか気に障ること言ったかな)
(あんたは神かもしれないが、ヴァルサが怖がっている)
(うひゃー、怖い、怖い。でもモルグズは紳士? だねえ)
ナルハインは新たな災厄としか思えない。
(災厄とはひどいな。僕は善意で君たちを救おうとしているのに。このままじゃ、イシュリナスの僧侶たちに捕まって、処刑されるよ、二人とも)
頭が痛い。
言語ともまた異なる意志のようなものを直接的に相手にぶつけられると、脳に負荷がかかるのかもしれない。
(ごめん。そんなつもりはなかったんだ。ただ、このさきに行けば、君たちを助けてくれる人たちがいるから。彼らと合流すれば、また違った道が開けるって言いたかっただけなんだ。じゃまあ、そういうことで)
金色の光は、いきなり消えた。
まだ頭のなかがじんじんと痛む気がする。
had ers narhain zeros cu?(あれがナルハイン神なの?)
ya:ya.(そうだ)
他になんと言えばいいのだろう。
veketo ci cu?(理解できたか?)
nomil vekeva ci foy.(理解できたかもしれない)
それでも、ヴァルサの声が弱々しいのは当然だろう。
ある意味、彼女はこの地の人間が普通なら経験できないようなことを、たっぷり見聞きしているのだから。
しかし、ナルハイン神をどこまで信じればいいのだろう。
この先にいけば別の道が、などと言っていたがどこまで信用できるのだろう。
そんなことを考えていると、銀の月ライカの光に照らされて、一台の馬車が止まっているのが見えた。
自分たちも人のことは言えないが、夜に馬車を見かけるというのも、なにか不自然ではないだろうが。
確かにいまはライカの光量があるので夜間でも動けるが、妙な違和感を覚える。
その馬車はどうやら二頭立てのようで、後ろには荷車をひいていた。
幌などもなく、いろいろとなにかの荷を乗せているようだ。
商人の馬車、というのがあればたぶんこんな感じなのだろうが、どうにも奇妙な気がするのは、ナルハインの言葉のせいだろうか。
停止した馬車から、小さな影がこちらに歩み寄ってきた。
最初は銀の月の月影を浴びているせいかとも思ったが、その髪は白く輝いている。
プラチナブロンドかもしれない。
地球では、メラニン色素が薄い白人種の間に、稀にこうした髪の持ち主がいる。
そもそも、地球の人類で白人種の肌が白いのには理由がある。
人類は、陽光を浴びることで生存に必要なビタミンDを合成しているのだ。
一方のメラニン色素は、陽光の紫外線から人体を守る機能を持つ。
これが低緯度地域の人々の肌が黒く、高緯度になるにつれて白くなる理由だ。
この世界の「人間」も同じような理屈が働いているかもしれないが、やはり小さな人影の髪はそれにしても白すぎるように思えた。
むしろこれは、白髪に近いのではないだろうか。
相手が近づいてくるにつれて、なんともいえぬ厭な感じが強まってきた。
相手はたぶん、子供だ。
ヴァルサよりさらに幼く、地球でいえば十歳児くらいに見える少女である。
服装はこの地ではありふれた、つまりは染色もされていない汚らしい身なりだが、彼女からはなぜか妙な気品のようなものが感じられた。
to eto reysi vam zerosa yujute val cu?(お前たちが我が女神が私に告げたものたちなのか?)
セルナーダ語では頻繁に主語を省略するものだが、彼女は丁寧に「お前、お前たち」を意味するtoをきちんと発音している。
だが、正直にいってなにか不気味さを感じた。
顔立ちは整っており、大人になれば美女になるかもしれない少女なのに、その顔はまるで仮面のようだ。
さらに見れば見るほど、髪は白髪としか思えない。
nap ers cu?(お前は誰だ?)
表情を変えずに、まだ幼く見える少女は告げた。
va era zemnariama zerosa.(私はゼムナリアの尼僧だ)
ヴァルサがこちらの体にぎゅっときつく抱きついてくるのがはっきりとわかった。
当たり前だ。
この地では、ゼムナリアの尼僧など、存在そのものが許されないはずなのである。
にもかかわらず、この少女は平然とそう名乗っている。
まるで人形のように端正な白面だが、その瞳の黒さはどこかで見たことがある気がする。
それがなにか思い出して、モルグズは慄然とさせられた。
この虚ろというよりは、なにも映していないよう瞳は地球で暮らしていた頃の「演技をしていないときの自分の目にそっくりだ」と気づいてしまったのだ。
何度も鏡で見た、空疎で、空っぽな瞳だ。
to kozfito ci ned vam yurfazo cu?(あなたたちは私の言葉を信じられないのか?)
その口調も抑揚に乏しく、まるでからくり人形が話しているかのようだ。
本物だ、と思った。
おそらく、この少女は忌まわしい本物のゼムナリアの尼僧なのだ。
だが、セルナーダの地では子供でも尼僧になれるのだろうか。
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