4 nadum alv ci fa:decle cu?(どうやれば辺境にいけるんだ?)

 yuridgurf era mig go+zun.tena yuriduszo kap.teg fa:dec era jabce ta tsisowa mxaz.(魔獣はとても強い。魔術も使う。なので辺境は危険で、住みづらい)


 それならば納得がいく。

 好き好んでそんな危ない土地に住むよりは、他の人々が多くいる場所に人が集中するのも道理だった。

 ただ魔獣が存在するならば、生態系にもそうとうな影響を与えているはずだ。

 好奇心がうずいたが、いまはもっと実際的な問題を考えねばならない。


 nadum alv ci fa:decle cu?(どうやれば辺境にいけるんだ?)


 ヴァルサが小さく肩を震わせた。

 緑の目には、恐怖の色が浮かんでいる。


 col era isxurinasiama so:lisma gil.(ここはイシュリナシアの北の端)


 それを聞いて、少し驚いた。


 nediv ci fa:decsa alv so:lisusa nxal cu?(北へ行けば辺境に出られるか?)


 ers cos ned.(簡単にはいかない)


 どうやらヴァルサは北に向かうのには否定的なようだ。


 kelkus rxuy ya: isxurinasiama so:lisma gilnxe.(イシュリナシアの北の端にはkelkus rxuyがある)


 rxuyは川のことだが、kelkusの意味がわからない。


 kelkus?


 ers rxuyma marna.(川の名前よ)


 つまりkelkus rxuy、ケルクス川がどうやらイシュリナシアの北の国境らしかった。

 川には大きく、人にとって二つの役割がある。

 まずは、ある地域と他の土地をわける境界としての機能だ。

 だが、前近代社会では川にはさらに重要な意味があった。

 言うなれば「道」である。

 水運は、陸運に比べると遥かに効率が良いのだ。

 そのため世界中のさまざまな国で、川や運河、水路などが水上の道として利用されてきた。

 イギリスのロンドンもテームズ川での水運が盛んだったし、パリなどはセーヌ川の水運業者が絶大な力を握っていた。

 パリがあそこまで発展したのは、セーヌ川を利用した水運があったからだ。

 日本でも江戸時代の江戸の街は、川や運河が周辺の地域からさまざまな産物を運ぶために利用されていた。

 当然、この世界も似たようなことは考えられる。


 alv ci voy mig cos tenav kelkus rxuyzo nxal cu?(ケルクス川を使えば簡単に辺境に行けるんじゃないか?)


 kelkus rxuy tena ci ned.tsult a:molum ya: rxuyma chagfele.a:mofe me:no menos tsultunxe rxuyzo.(ケルクス川は使えない。川の近くにはtsultがたくさんある。たくさんの見張りがtsultで川を見張っている)


 どうもtsultというのは見張りがいる軍事施設のようだ。

 重大な点を失念していたことに、今更、気づいた。

 イシュリナシアは、グルディアという国と敵対していたのである。

 ひょっとすると、グルディアはイシュリナシアと辺境を挟んだ北のほうにあるのかもしれない。


 gurudia nal ya: cu?(グルディアはどこにある?)


 ya: isxurinasiama fo:lisfiksule.kelkus rxuy rxuyiya nan muzefpo ya: gurudiama mansule.(イシュリナシアの北東にある。ケルクス川はグルディアの中央にある大きなmuzefから流れてるの)


 muzefは確か「湖」だったはずだ。

 「正しい言葉」に載っていた単語だが、他の水に関する言葉と異質だったのでよく覚えている。

 suyn「海」やasuy「血」など水や液体にはsuy「水」がつくことが多いのだが、muzefは明らかに違う。

 たぶんこれは、先住民系の言葉が語源なのだろうと推測していた。

 

 kelkus rxuy batsiya akla suynule.tenas re li gardole isxurinasiatse.(ケルクス川はアクラ海につながってる。イシュリナシアによって守りに使われているのよ)


 事情がだいぶ呑み込めてきた。

 おそらくイシュリナシアは、古代ローマ帝国のライン川やドナウ川のように、ケルクス川という北の国境の川を「防衛線」として用いているのだ。

 かつてローマ帝国は、北東に住むゲルマン人の襲撃に悩まされていた。

 そこで皇帝たちは二つの河川をいわば「水でできた城壁」として利用したのである。

 二つの川のそばには幾つもの砦が建てられ、常時、ローマ兵がゲルマン人の襲撃がないかどうかを監視していた。

 もしどこかで渡河が始まれば、即座に連絡がいき、ローマの誇る軍団兵がゲルマン人の戦士たちを排除したのである。

 異世界とはいえ、こうした点は地球とは変わらないようだ。

 なるほど、だとするとケルクス川を突破するのは、たとえイシュリナシア側からでもかなり、面倒なことになりそうだ。

 下手をするとグルディアの間者と間違えられるかもしれない。

 だが、と思った。

 昨日、グルディア人らしい男が旅籠の一階で食事をしていた。

 いまは平時らしく、民間の商人などはある程度の規制はあるだろうが、イシュリナシアにも来ているらしい。

 つまり、グルディアとイシュリナシアでは往来がある、ということだ。

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