5 nersatia mxojoga yuridusma tigatse cu?(ネルサティアは魔術の力で滅んだのか?)
suyjit ya: tic kelkus rxuylma nalfigle.(ケルクス川のどこかに橋があるはずだ)
suyjitは「橋」のことだが「水」と「板」が合わさって出来た単語かもしれない。
単語の由来を考えるのも結構、興味深いものある。
ya: kelkukada:nnxe.kada:n era nan tslut.(kelkukada:nにある。kada:nは大きなtsultよ)
tsultはたぶん、砦や城のことだろう。
だとすれば、それが大きくなった城塞にあたるのがkada:nなのかもしれない。
ただ、なぜかkada:nという音の響きに、若干、違和感を覚えた。
いままでのセルナーダ語でもありうる音だが、どこか異国的な感じがしたのだ。
kada:n era sxala:nma yurfa.(kada:nはsxala:nの言葉なの)
それで、納得がいった。
sxalas、すなわちシャラスという商業と契約の神も、確か元はsxala:n、つまりはシャラーンの神だったはずだ。
このセルナーダでは、ネルサティアと先住民に加え、シャラーンという土地の文化や神々、言語も混じり合っているらしい。
地球でも、よくあることだ。
ある言語がその純粋さを維持することはほとんどない。
たいていの場合、近隣の人々の言語の影響をうけてしまうものなのだ。
シャラーンという地の言語も相当にセルナーダ語に影響を与えている可能性がある。
それはともかく、ケルクカダーンとやらにいけばケルクス川を渡って辺境に出ることはできそうだが、ヴァルサは陰鬱な表情を浮かべていた。
gow alv sup ned kelkukada:nle.a:mofe i+sxuresi yas jodnxe teg.(でもケルクカダーンに行くべきではない。たくさんの騎士たちがそこにいるから)
思わず息を呑んだ。
考えてみれば、当然のことだ。
ケルクカダーンが北のグルディアの侵攻に備えた城塞であれば、そこには相当数の人員を持つ軍隊が駐留しているはずなのである。
isxurinasma i+sxures kap yas cu?(イシュリナスの騎士もいるのか?)
melrus ers!(当たり前でしょっ)
それはそうだろうが、一応、確認したかったのだ。
想像していたよりも、状況は遥かに悪い。
まず北へ向かって辺境に抜ける、という手はちょっと無理そうだ。
だとすれば、東、あるいは西はどうだろう。
wob ya: isxurisiama du:sxule cu?(イシュリナシアの西にはなにがあるんだ?)
akla syun ya:.(アクラ海よ)
どうやらセルナーダの地の西側はアクラ海と面しているらしい。
だが、海路で逃げるという手もある。
nadum hayiv ci akla syunma suyvele cu?(どうすればアクラ海の船に乗れるんだ?)
ヴァルサが信じられない、と言った顔をした。
nedito fog selna:dapo cu? kozfiva ci ned....(セルナーダから出たいの? 信じられない……)
どうやら、ヴァルサにとっては想像もできないようなことらしい。
gow tufa vekato nersatia yurfazo.alv nersatiale nxal....(でもお前はネルサティア語がわかる。ネルサティアに行けば……)
かつて、ネルサティア人はアクラ海を渡って船でこの地に来た、という話を聞いた。
ならばその逆も可能なはずだ。
だが、ヴァルサは話にならない、といったように深々とため息をついた。
vekava uld nersatia yurfazo,era ned jenma nersatia yurfa.ta nersatia mxojoga.(私がわかる言葉は古代ネルサティア語で、今のネルサティア語じゃない。そしてネルサティアは滅んだの)
mxojoga?(滅んだ?)
驚いて、聞き返してしまった。
苦々しげな顔をしてヴァルサがうなずいた。
jen,nersatia reysi ers sxa+guce.yelselas mxo:jonxe.(いまはネルサティアの人たちは少ないのよ。遺跡で生き延びている)
それでいまのネルサティアの状態はだいたいわかった。
どれほど進んだ文明でも、永遠に栄えるはずもないのだ。
諸行無常、盛者必衰の理はこの世界でも変わらぬようだ。
大いなる魔術の力を持つネルサティアの地ですら、滅亡した。
あるいは大いなる魔術の力をもったがゆえに、かもしれない。
nersatia mxojoga yuridusma tigatse cu?(ネルサティアは魔術の力で滅んだのか?)
一応は魔術師であるヴァルサに訊ねるには、あまりに酷な問いだったかもしれない。
彼女は無言のまま、顔をこわばらせた。
つまり、それが答えだ、ということだろう。
地球における科学技術がそうであるように、この世界における魔術も、諸刃の刃ということだ。
強力な力は、うまく使えば人々の役に立つ。
たとえばさきほど見た、糞尿を乾燥させることによって燃料に変える魔術は、この街の人々に多大な恩恵を与えている。
だが、もしあの女魔術師が「人にむかって乾燥の呪文をかけたらどうなる」だろうか。
実際に人に使えるかはともかく、もしそれが可能ならば人間を一瞬にしてミイラに変える恐ろしい兵器に早変わりするだろう。
ここはゲームのために作られた愉しい冒険をするためのファンタジー世界とはあまりにも違いすぎる、地球とは異なる残酷な現実なのだと改めて痛感させられた。
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