10 jen te+sxuma bug vasum noblowa li cu?(今年の麦はよく育っているのかね?)

 鍛冶屋、革細工師、そのほかさまざまな種類の職人たちがこの街にはいるようだ。

 都市部は、自給自足はできない。

 あくまで農村部からの食料が供給され、それをもとにして経済的発展が可能になる。

 ちょっとあたりを見渡すだけで、さまざまな職業の人々がいるだろうことは想像がついた。

 樽職人、大工、石工、指物師、仕立て屋、なかにはちょっとした規模の醸造所らしいものもある。

 さすがにこの程度の規模の街では金銀細工をする者はいないようだが、他にも金物細工や鍋などの製造、さらには鋳物細工などは鍛冶屋が行っているかもしれない。


 me:fe a:ba ya:.(焼き立てのパンがあるよ)


 famna a:molum era!(野菜がたくさんっ)


 rxuysuyfi era!(川魚だよっ!)


 許可を取っているのかは知らないが、そこらの黒褐色の土がむきだしの路地の前に粗末な布を敷き、さまざまな人々が食べ物を売っている。

 今日は市が立つ日というわけではなく、これが日常の朝の光景なのだろう。

 保存が難しい食材は、当然ながら、毎日のように買わなければならない。

 さらには街のあちこちのちょっとした広場には井戸が設けられており、主婦らしき女性が水を汲み上げ、桶で自宅に運んでいた。

 そのまま井戸端会議を始める者もいる。


 jen te+sxuma bug vasum noblowa li cu?(今年の麦はよく育っているのかね?)


 era foy ned zad.(悪くはないらしいが)


 そういう中年女性たちの体型を見ると、結構、でっぷりとしていた。

 ならば栄養状態はそれなりにいいのだろうが、それだけとは限らない。

 彼女たちはまず食料でもカロリーを優先している可能性がある。

 先進国とは違い、現代の地球の途上国でもこうした体つきの人々がたまに見られるのは、とにかくカロリー第一と考えているからだ。

 特に冬さの寒さが厳しい地域では、笑い事ではなく、そうして脂肪を身に着けないと死亡率が高まる。

 あちこちをきょろきょろと見回している自分が、いつのまにか人々の注目を浴びていることに気づいた。


 nap ers azuz cu?(あれは誰だい)


 unfe meva had cafzo.(あの顔は初めて見たよ)


 kalis we:nazo cafle.(顔に布を巻いてるね)


 rxafsa era mo:yefe.(女の子は可愛いけど)


 この世界でも女性が噂話を好むのは変わらないようだ。

 彼らには、彼らの生活がある。

 ふと思った。

 自分は、彼らからすれば、たぶん異物なのだろう、と。

 そのとき、奇妙な建物が視界の隅に入ってきた。

 小ぶりで低い円蓋屋根の建物だが、その屋根は塗料らしきもので青く塗られていたのである。

 塗料は決して安くはないはずだ。

 さらにいえばそこそこ人が出入りしている。

 商店というのとも感じが少し違うし、職人の工房でもなさそうだ。


 wob ers cu?(なんだ?)


 ya:ya.had era nesxerikama zersef.(ああ。あれはネシェリカの寺院よ)


 その名には聞き覚えがあるが、あれは確か青の月の名のはずだった。

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