6 morguz? tom caf era mig za:ce(モルグズ? 顔色がひどく悪いけど)

 ers go+defe! aln jod ers yuridus cu?(すごい! 全部、魔術なの?)


 yuridus ers ned.ers...kagaku.(魔術じゃない……科学だ)


 科学に相当する言葉がすぐには思いつかなかった。


 wob ers kagaku cu?(科学ってなに?)


 umm....fensum kaksiv ci ned.gow ers foy yuridus cedc.(うーん……うまく説明できない。でも、魔術みたいなものかもしれない)


 自然の法則を研究してさまざまな物事を論理的に考え、便利な道具をつくる。

 そんなことをセルナーダ語で説明できるか自信がなかったし、いくらヴァルサが聡明な少女でも、なまじ魔術が実在する世界なだけにその概念を正確に理解できるとは思えなかったのだ。


 vete go+defe yudnikpo.gow joima reysi zemgas reysuzo cu?(すごい世界から来たんだ。でも、そこの人たちは人を殺すの?)


 ひょっとすると、一番、ヴァルサが聞きたかったのはそこなのかもしれない。

 あまりにもモルグズが簡単に人を殺そうとするのは、異世界の人間だから、と彼女が考えてもおかしくはなかった。

 つまり、倫理観などがこの世界とは基本的に違う、という可能性も考慮したのだろう。


 reysi zemges ned reysuzo.vim avigiv li yanxe.ers tu+ko.(俺の暮らしていた国では人々は人を殺さなかった。それは犯罪だ)


 nadum avite jolnxe cu?(あなたはそこで、どんな暮らしをしていたの?)


 bombogiv ci ned.(思い出せない)


 じっとヴァルサはこちらの表情を観察しているように思える。

 しかし、いまのところ嘘は何一つ、言っていない。


 abova tuz eto rxo:bin reys.gow eto mig jawfe.(あなたは怖い人だと思う。でもあなたはとても優しい)


  zemgav sav fog reysuzo vim tav era dewdalg dog .(俺が人を殺そうとするのは俺の体が半アルグだからかもしれない)


 ers foy.(かもしれない)


 ヴァルサがうなずいた。


 now morguz,lokyiva tuz.(それでもモルグズ、私はあなたが好きよ)


 yem eto gxafsa.(まだお前は子供だ)


 era raxfsa!(私は少女よ)


 セルナーダ語のgxafsaとrxafsaの違いを、まだモルグズはよく理解していなかった。

 同じ女の子を意味する単語とはいえ、gxafsaはまだ本当に小さな女の子、rxafsaはある程度、発育した少女のことのようだ。


 yem eto ned udne.(お前はまだ大人じゃない)


 erav udnema resa noblova decrisle nxal .(十六に育てば私は大人の女よ)


 この世界では、十六歳で成人と見なされるようだ。

 確かヴァルサは十四のはずなので、社会的に見ても未成年ということになる。


 sxalva li wob ko+zolm wente jarnxe ot.(私はあなたが夜にこっそりなにをしていたか知っているんだから)


 どきりとした。


 eto vinlin.(いやらしい)


 ヴァルサがにやにやと笑った。

 なにしろこの体は相当に強い精力の持ち主らしく、正直、欲望をもてあましていた。

 まだ未成熟とはいえ、それなりに発達した体を持つヴァルサと同じ寝台で寝るというのは、ある種の拷問に近い。

 そこでトイレ替わりの桶のなかに、「危険」を感じると余計なものを一人で「処理」していたのだが、まさかヴァルサに気づかれているとは思わなかった。


 santu:r!(黙れ)


 vam udnema resama fans ers za:ce foy.(私の大人の女の魅力が悪いのかも)


 nap ers udnema resa? eto gxafsa!(誰が大人の女だって? お子様がっ!)


 eto be:bec.(この意地悪っ)


 そう言いながらも笑っているヴァルサを見ながら、モルグズはまったく別のことを考えていた。

 確かに自分は、大人の女にしか興味がない。

 年齢は二十代前半から後半。

 色白ですらりとした体つき、髪は黒髪で背の半ばまでのストレート、そしてもちろん顔は美しくなければならない。

 「処理」をしていたとき、一体、自分はなにを考えていた?

 冷たい体。落ち葉と腐葉土の匂い。暗い森。血にまみれたサバイバルナイフ。

 なんだ、いまのは。

 脳裏をかけめぐったいまの記憶の断片はなんだ?

 いままで考えまいとしていたが、そろそろ限界かもしれない。

 なぜヴァルサが首に腕を絡みつかせるとひどく不快な気分になるのか。

 なんとなく、わかり始めている。

 それでも真実を認めたくない自分がいる。

 殺人に対しての抵抗がなさすぎる、その「真の理由」はなんだ?

 そして、どうやって自分はこの世界にやってきたのだ。

 すでに元の世界での肉体は滅んでいると、以前、死の女神は言っていたはずだ。

 死因はなんだ?

 事故死でも、病死でもない。

 突然、足元の床が消失する感覚をはっきりと思い出す。


 morguz? tom caf era mig za:ce(モルグズ? 顔色がひどく悪いけど)


 mende era ned.(問題ない)


 激しい睡魔に襲われ、引きずり込まれるように眠りの世界へとモルグズは落ちていった。

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