2 ja:m ers a:mofe to:g.(敵が多すぎる)

 gurudiares cuchas selna:da yurfazo cu?(グルディア人はセルナーダ語を話すのか?)


 cuchas mig sa+gxan selna:da yurfazo.(彼らはとても汚いセルナーダ語を話すの)


 嫌悪感と憎悪にヴァルサの言葉は満ちていた。

 たぶん、この世界には差別という言葉はない。

 自分が半アルグと疑われ、さらに魔術師として周囲から白い目で見られていたというのに、ヴァルサはグルディア人への差別感情を隠そうともしない。

 人権意識がない世界では、他者を差別しているのが悪い、という感覚はあまりないのだ。

 とにかく再び「馬」に乗り、先に進むことにした。

 その道中で、ヴァルサからさまざまなグルディア人の悪口を聞かされた。

 どうも彼らは北方の異民族の血をひいているらしい。

 褐色の肌は、それが原因のようだ。

 また北方の異民族の言語の影響をうけて、グルディア人は他の国とは少し違う「汚いセルナーダ語」を使うという。

 面白いのは、ヴァルサはほとんどグルディア人を見かけたことがない、という点だ。

 あるいは彼女の頭のなかでは、グルディア人はアルグと大差ない存在なのかもしれない。

 いわく、グルディア人はubodoという邪悪な神を崇めている。

 この神は苦悩と絶望の神で、感情を失えば人々は救われる、という教えを広めているらしい。

 それに対し、イシュリナシアの守護神はイシュリナスという。

 これは「正義の神」だというのだから、恐れ入る。

 イシュリナスの僧侶たちは、邪悪な心を持つものがわかるzertigaが使えるらしい。

 いままで数え切れないほど、イシュリナシアとグルディアが戦争をしているという話も聞かされた。

 まさに宿敵、といった感じのようだ。

 ただそのわりには、平時にグルディア商人がイシュリナシアに商売にしたりすることはあるという。

 だが、一番、驚かされたのはセルナーダにはもう一つ、yiomanteという大国があるという話だった。


 yuridres sxumas yiomantezo.(魔術師がyiomanteを治めている)


 イオマンテというのはアイヌの熊送りの儀礼に似た名前だが、たぶんこれは偶然の一致だろう。

 以前、魔術師は一般人に管理されるか、もしくは逆に魔術師が一般人を管理するかと考えたことがあるが、イオマンテでは完全に後者のようだ。

 だが、ヴァルサがイオマンテも嫌っているというのがなかなかに面白かった。

 なんでもイオマンテでは魔術師はより強力な魔術師に管理される、という体制が出来ているらしい。


 nafato alvot fog yiomantesa cu?(お前はイオマンテに行きたいと思わないのか?)


 ne+do!(思わないっ!)


 ヴァルサは即答した。


 dusonvava yeomantezo teg.(イオマンテは嫌いだから)


 といった調子だ。

 魔術師の国といえば魔術師の楽園のように思えるが、ことはそう簡単ではないらしい。


 yuridres tsas menos re yeomantenxe.(イオマンテでは魔術師はいつも見張られている)


 魔術師の国家であれば、それは当然のことのようにも思える。


 j,,yuridinma zersef kap menowa voz.(yuridinのzersefも私達を見張っている)


 最初にjと聞こえたのは、yの聞き間違いかもしれない。


 yuridin wob ers cu?(ユリディンてなんだ?)


 ers sxu:lu ta yuridusma zeros.(知識と魔術の神よ)


 なるほど、魔術師にとっては重要な神のようだ。

 さらにzersefについて訊くと、どうも寺院という建物だけではなく、そこから派生して教団のような意味も含んでいる気がした。

 zerは神に関係する接頭辞のようなものだ。

 一方、sefは建物を意味するse:fがもとになっているのだろう。

 これをつなげた言葉がzersef、すなわち寺院なわけだが、それ以上の意味がこの単語には含まれているようだ。


 yuridin zersef rxobiwa yuridres gazgazo.(ユリディン寺院は魔術師が暴れることを恐れてる)


 この世界での魔術師の立ち位置がもっとよくわかってきた。

 おそらく、魔術に関係のない領主や国家は、あまり魔術師には関わりたがらないのかもしれない。

 魔術は彼らにとっては異質で、得体のしれない力なのだ。

 だから、そうしたものはユリディン寺院が監視している。

 通常の司法機関にかわり、ユリディン寺院がまわりに迷惑をかけた魔術師を「裁く」ことも考えられた。

 どうも、セルナーダの地は想像した以上に複雑な社会のようだ。


 nap laspas yuridreszo tukos nxal cu?(魔術師が罪を犯したら誰が裁くんだ?)


 yuridin zersef laspa.(ユリディン寺院が裁く)


 つまり、今の自分たちには三種類の敵がいるらしい。

 まずはアーガロスの悪霊である。

 次に領主と、その兵士たち。

 そして、ユリディン寺院も、魔術師の起こした不祥事としてこちらを追いかけてくるかもしれない。


 ja:m ers a:mofe to:g.(敵が多すぎる)


 日没に近い泥まみれの道で馬を西にむけて走らせながら、モルグズは思った。


 ers foy.(そうかもね)


 後ろからヴァルサの声が聞こえてくる。

 とにかく今は彼女を守ることを最優先にすべきだった。

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