3 nafato so:ltav sup had tosle cu?(あの村に近づくべきだと思うか?)
前方に人家の明かりらしいものが見えた。
だが、この村も前の村と同じ領主が統治している可能性がある。
夜空には、相変わらず派手に銀の月、ライカが輝いていた。
そのためあたりはまだある程度は明るい。
この世界では、ライカの月齢はたぶんかなり重要なはずだ。
ライカが新月の夜は、他にも二つの月があるとはいえかなり暗くなる。
だが今夜のようにほぼ満月の場合、松明などなくてもそれなりに明るい。
銀の月ライカは、およそ三十二日周期で満ち欠けをするとヴァルサからは聞かされていた。
だが、少なくともセルナーダの地では、古代ネルサティアからの太陽暦が使われているという。
地球にも太陽の周期に基づく太陽暦と、月の周期に基づく太陰暦が存在したが、それはこの世界でも似たようなものらしい。
北方のsxala:nと呼ばれる地域では、銀の月をもとにした太陰暦が用いられている。
ちなみにこのsxala:nの人々がかつてセルナーダの地に攻め込み、その子孫がグルディア人だという話だ。
地球でいえば中緯度の乾燥地域に住むアラブ人のような民族がsxala:nの人々かもしれない、とモルグズは想像していた。
彼らはひどく堕落した文化を持ち込んだ、とヴァルサは言い張っているが、それがどこまで本当かはわからない。
とにかく、今は生き残ることをまず優先に考えるべきだ。
どうもここはイシュリナシアという国に属しているようなので、最悪、ヴァルサは嫌がるだろうがグルディアに向かうことすら考えている。
イシュリナシアでは自分たちは罪人として扱われるだろうが、国外に出れば話は違う。
ただ、いまはとりあえず今夜をどうするかが問題だ。
nafato so:lltav sup had tosle cu?(あの村に近づくべきだと思うか?)
vekava ci ned.(わかんないよ)
世間を知らないヴァルサにしてみれば、そうなるだろう。
馬のsakuranabeもやはり疲れているようだ。
となれば野営でもするしかないが、そんな道具は何もない。
ヴァルサは大量の硬貨や宝石、つまりは富を持ち合わせているとはいえ、それは一般人には逆に刺激を与えかねない。
最悪の場合、そこらの農家に報酬を払って泊まったとしても、財産目当てに殺されるということもありうるのだ。
近現代の警察のような組織があるとは、考えづらい。
領主が裁判を行ったとしても、それは地球の先進国におけるものとはまるで別物だろう。
フランス革命以前の頃から、さまざまな思想家が現代的な思想を主張し始めた。
司法、行政、立法という三権分立などもそうした概念の一つだ。
司法は、法を司り裁判を行う。
行政は、政治を法に則って行う。
立法は、法律を作ったり、変更したりする。
現代日本であれば、司法は裁判所、行政は政府、立法は国会が担当し、それぞれを監視しあっている。
だがこの世界でそうした近代的な思想が発達しているとは、思えなかった。
慣習法のようなものはあるかもしれないが、裁判はかなり領主の裁量に任される可能性が高い。
現代の地球ですら、三権分立が機能していない国のほうが多いのだから。
風に乗って笑い声のようなものが聞こえてきた。
had se:f era foy mxo+gosef.(あの建物はmxo+gosefかもしれない)
mxo+goは「集まる」を意味する動詞の名詞形だ。
集まり、あるいは集会なども意味しているらしい。
後ろに-sefがついているのだから、日本語に訳せば「集会所」といったところだろう。
そういえば、前の村でも一つの大きめの建物にだけ、よく窓から明かりらしいものが漏れていた。
この世界では、人々の生活は天体の動きに左右される。
日没を迎えると人々はそのまま眠りにつく。
そして日が昇ると、働き始める。
照明が少ない状況では、ある意味、そのほうが合理的で、昔の地球も似たようなものだ。
ただこの地には魔術というものが存在する。
人々に本質的には嫌われてはいるが、例えばアーガロスのような火炎魔術師がいれば、照明には苦労しないかもしれない。
had sos ers yuridce sos.(あの光は魔術の光よ)
あるいは、魔術師がこの村にもいるというのだろうか。
そんなモルグズの考えを読んだかのように、ヴァルサが言った。
mende era ned.cod tosma reysi tenas yuridce tso:biszo a:garos sekgo.(問題ない。この村の人たちはアーガロスが作った魔術の道具を使っている)
さすがに驚いた。
tosma reysi veyigi yuridce tso:biszo a:garospo.(村の人々は魔術の道具をアーガロスから買ったのよ)
つまり、彼にはそういう物を作る力もあったらしい。
相当に魔術の腕前は確かだったようだ。
魔術師は霞を食べて生きているわけではないのはわかっている。
となれば、彼らも生活していくための金が必要となるはすだ。
人々に役立つ魔術をかけたり魔術の品を売ったりすることで生計をたてているのだろう。
yuridfe tso:bis ers mig so:gen.gow tosma reysi veyigi jodzo ers ma:nra teg.(魔術の道具はとても高い。でも便利だからこの村の人たちはそれを買ったのよ)
そのとき、ヴァルサの腹のあたりがぎゅるぎゅるという音が聞こえてきた。
相当に腹が減っているのだろう。
そういえば朝食からなにも食べていない。
今更ながら、空腹を意識した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます