第7話 拘束

 白を基調とした部屋で目を覚ます。目を開けると陽の光が眩しい。手をかざそうとして自身の腕がベルトのようなものでベッドに固定されているのがわかった。


「なっ……なんだよこれ」


 慌てて身体を起こそうとして、腕だけでなく身体全体が固定されているのがわかった。


「意識レベルは良好、バイタルは……やっぱり脳以外は死人だね」

「ですが血液や肉片はきちんと消化されていました……」


 首を横に向けると白衣を纏った男が二人、バインダーに何かを書きながら話している。首が動く範囲でよくよく見てみれば体中に様々なセンサーが付けられ、ベッド横に備え付けられた様々な機械へとつながっていた。


「さて、気分はどうかな? 立花たちばな和人君」


 白衣の男が話しかけてくる。


「……ベッドに固定されているのに気分がいい人はいないと思いますが」


 すると男は面白そうに僕を見る。その後同じように何かをバインダーに書き込むとベッドの横に座る。


「固定されている理由がわからないのかい?」


「思い当たるフシはありません」


 男はペン先で頭を書くとブツブツと何かをつぶやきながら書き留めていく。


「ふむ、君はどこまで自分のことを覚えているか、思い出せる範囲で一番古い記憶を教えてくれるかな?」


「その前にこの拘束を解いてくれませんか」


 男の質問を遮るように抗議する。拘束される理由がないのに拘束されたまま話をしろと言われても納得ができなかった。


「んー……それは難しいかなぁ。君が覚えているかどうかはわからないけど、君の行動の結果拘束されているわけだしね」


 男は何かを考える仕草をした後に言葉を続けた。


「まあ、とりあえず指示に従ってくれれば悪いようにはしないさ、だからね?」


 懇願するように男が話す。拘束されるだけの理由に思い当たるフシは無かった。


「わかりました……一番古い記憶、ですよね」


 目を閉じて思い出そうとする。すると靄がかかったように思い出すことができなかった。それでもなんとか思い出そうと記憶に引っかかるものを口にする。


「暗い……部屋だったと思います。お線香の匂いがして……気づいたら病室に居て……」


 そうだ、誰かと会った気がする。誰だか思い出そうとするがどうしても出てこない。


「目が覚めたら誰かと食堂に行って……その後はどこか人気のない場所に行った気がします」


 話を聞いている男が何やら難しい顔をする。ペン先で頭を書きながらまたブツブツと何かを言いながら書き留める。


「意識障害……やはり脳にも異常が出てるかな」


 男がバインダーから何枚かの写真を取り出していく。それを見えるようにこちらに向ける。


「この写真に写っている人達に見覚えはあるかな?」


 そこにはガタイの良い男性や同年代だろうか、十七、八に見える女性。そして一回り小さい小学生位の女の子が写っていた。


 ――"お兄ちゃん、お兄ちゃんなのに弟みたい"


 ひどい顔をした僕のことを、弟のようだと言ってあやした女の子が居た。確かにその記憶があるがそれがいつなのか、誰だったのかが思い出せない。


「こっちはどうかな」


 更に二枚の写真を見せられる。そこには四十代後半だろうか、二人の夫婦が写っていた。


 ――"泣かないで、母さん"


 そうだ、僕はこの人に泣いて欲しくなくてなんとか声をかけようとして……


「母さん……泣かないで……」


 気づけば頬に涙が伝っていた。何故泣いているのかがわからない。わからないが何か大切なことを忘れていると、そう感じていた。


「ふむ……やはり脳にもある程度影響が出ているみたいだね」


 そう言うと男はバインダーに何かを書き留めてそれを後ろの男に渡す。


「さて、それじゃもう一眠りしてもらおうかな……大丈夫、起きたら君の拘束は外してあげるよ」


 そう言って男は首筋に何かを当ててくる。冷たい何かが身体に入ってくる感覚の後、再び意識が闇へと沈んでいった。

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