第2話 身体
白を基調とした部屋の中で目を覚ます。部屋の中にはベッドと簡易トイレそして洗面台しか無く、窓には鉄格子がかかっている。
「おはよう
部屋に備え付けられたスピーカーから男の声が聞こえてくる。おそらくはスピーカーとセットになったカメラでこちらの様子も見ているのだろう。
「おはよう
眠い頭を起こすように頭を横に振る。洗面台で顔を洗い、備え付けられたタオルで顔を拭く。鏡を見れば血の気のない顔がそこにあった。
「さて、早速だけどカウンセリングを始めようか。君もそのほうがいいだろう?」
スピーカーから一先生の声が聞こえてくる。ここに入れられてから毎日行いっているある種の日課のようなものだった。
五日前、霊安室で目を覚ました僕に待っていたのは何重にも渡る精密検査だった。血液検査、MRIにCTスキャン。果ては髄液検査等あらゆる検査を受けた僕に待っていた答えは、既に肉体は死亡しているという事実だった。
心肺停止、既に血液を送り出す心臓はほぼ停止しており、なんとか血液の循環が保たれている状態。脳波に異常が無いことが何よりの異常だと言われた。
「んー、これはもはや蘇生じゃ無くてゾンビ化だねぇ」
一先生がため息を吐くように告げた時の顔は現代医学では説明のつかない現象であることを告げた上でのものだった。
「和人君にはすまないが、君はもう生物的にはほぼ死んでいると言って間違いない。何故か異常のない脳だけが君に残された人としての部分だ」
机の上に幾つかの画像が並べられている。その何れもが見たことのない物だったが何れも自分の身体を指していることはわかった。
「内臓もほとんど機能していない、おそらく君は目覚めてからずっと食欲を覚えていないんじゃないかな?」
食欲は確かに無かった。というより今まで感じることの多かったあらゆる欲求が希薄になっていた。
「食欲はありません……飢えや眠気はありません」
「ふむ……身体が必要ないと脳が判断しているのかな」
一先生が頭を掻く。カルテに何かを書いていくとバインダーを閉じて僕と向き合う。
「とりあえず一般病棟で経過観察としようか。もう少し検査を続ければ色々わかるかも知れないからね」
こうして、僕のゾンビ一日目が始まったのだった。
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