第7話 にづくり

 寺原にとって、今日という日はそれはもう濃密な一日でしかなかった。事件以来横浜や東京といった大都市に住むことはなく、釈放されたあとすぐに北海道の地図上ではど真ん中であるこの地に越してきた。収入はFXだが、大して上手くもない。パソコン一台買うのだって苦労する彼にとって、お金というものは縁がないといっても過言ではなかったのである。


 夜九時。静かな薄暗い部屋の真ん中で、小枝はうとうとしはじめた。もう寝る時間だ。いい生活をさせてやるとか言いながら、布団の一枚も用意できない。夏場だからまだ多少なんとかなっているが、これが冬だと――考えたくもない。まあ、冬まで彼女と過ごすことはおそらくないだろうが。


「もう寝るか?」


「ぅん…………」


 一日で最後に行われた会話がそれだった。寺原は小枝に一枚しかないジャンパーをかけてやり、自分も寝ることにした。


 三日でこの部屋を出ないといけない。経験がそう言っていた。匿っているのは隣町の少女。本格的に捜索が始まれば、ここまで追っ手が来るのも時間の問題だ。そう思うと、寺原は早朝から何かを探しはじめた。


「何を探してるんですか?」


「起きてたのか」


 時間にしてまだ朝の五時である。小学生にはまだ起きるのに苦労する時間帯のはずだが、小枝は全く眠いそぶりを見せていなかった。


「いや、まあ慣れてるんで。起きちゃうんですよ」


「あまり深くは聞かないほうが良さそうだな」


 寺原はそう言うと、再び手を動かした。少し離れたところからその様子を見ていた小枝はさらに気になったのか、真横にやって来た。


「で、何をしてるんですか?」


「昔一緒に捕まってたやつに渡されたメモを探してるんだよ」


「メモ、ですか?」


「そうだ。申し訳ないが、この家と過ごすのはあと二、三日が限度なんだ」


「どうしてですか?」


「お前の保護者が警察に事態を伝えて、その範囲が広がってくる頃だからだよ。いくら距離が離れているとはいえ、ここが隣町であることには変わりないからな」


「あの人は私がいなくなってもなんとも思わないでしょうけど」


「まあそう言うなって。どっちの生活をお前は望むんだ? 俺と一緒に来るか? それとももとの生活に戻るか?」


「そんなの、わかってますよね」


「悲しいがな……あったあった」


 もともと探すときに邪魔になるものもそんなに多くないのである。どこに置いておくか迷ったものについては、この段ボールにまとめて入れておくことにしているのだ。そこには、いつのものかよくわからないものまで入っている。


「この女の子たちは誰ですか?」


「ん?」


 小枝が手に取ったのは、その中に入っていただろう、いつぞやの写真。少女が四人並んで立っているものだ。みんなそれぞれが可愛らしく笑っている。


「四人並んでるって時点で誰だかは察しついてるんだろ?」


「ついてますよ」


 哀しい微笑みだった。

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