第2話 はじまり
「失礼します」
「本当に来たのか」
時にして午後四時きっかり。寺原が半分寝かけていた頃だ。手に取っていた雑誌を無造作に置くと、彼は玄関に向かった。
「家に上がるからには、さすがに自己紹介をしてくれ」
「吉村小枝、小六で十二歳です」
「家は?」
「隣町です」
「隣って……ここ北海道だぞ。相当離れたところだな」
二人は一瞬目を合わせると、少し照れた感じで居間に向かった。1Kのアパートである。
吉村小枝と名乗った少女は黒髪ショートカットのひどく似合う華奢な女の子だった。身長に関しては一般的小学生のそれだったが、寺原が受け入れるには十分であった。もっとも、彼の趣味に対しては年齢が伴えば誰でもいい、といったところなのだが。
小枝はランドセルを置くと、ドサッとなだれ込むように床に倒れこんだ。相当に疲れていたのだろう。
「おいおい大丈夫かよ」
「体力が元来ないんですよ」
「さっきから難しい言葉をよく知ってるね」
「育て親は腐っても大卒の祖母ですからね」
「さんざんに言うな」
「この時点で蹴られてないのは新記録です」
「そんなにひどいのか……」
普段ハードな映像で欲を満たす寺原でさえ引いた。近くでしっかり見ると、半袖から見える白くて細い、それこそ小枝のような腕には何ヵ所かあざが見える。
「寝るか?」
寺原はどうしようもなくなったのでそう言った。彼女はむくりと起き上がると、首を振った。生ゴミのような臭いが周囲に振り撒かれる。
「最後に風呂に入ったのは?」
「覚えてません」
「だろうな」
小枝が自虐的に笑ったので、寺原は珍しく少女というものに少し怒りに似たものを覚えたが、それもすぐに性欲に置き換えられてしまった。
「ま、シャワー浴びてこい。着替えは適当に置いておく」
「なんで着替え持ってるんですか」
「俺を誰だと思ってんだよ」
それもそうか、と呟くと、彼女は久々の入浴に胸を踊らせたのか、少し鼻唄を歌うようにして脱衣場に入っていった。
もちろん、寺原も後を追う。本当はこのいるだけで嫌な臭いの中でひとつこなすのもありだとは思っているような男である。その行動に疑問は抱かない。
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