Case10 エリ高ロボ(1)

 そうして怪談の正体が、洒落か、誇張か、はたまたただの見間違いかと次々に解き明かされていく中、それでも乙波の飽くなき探求心はその翌日も衰えようとはしない……いや、衰えるどころか、むしろ加速してさえいるといえよう……。


「――エリ高ロボぉ!?」


「そ。超変形合体、襟野五十一高校ロボだよ!」


 今日も放課後の教室で乙波と待ち合わせた俺は、開口一番、彼女の唱えた新たなるトンデモ仮説に素っ頓狂な声を上げる。


「東京都庁がロボットに変形するっていう都市伝説聞いたことない? あれと同じように、この高校もロボットに変形するんだよ! 体育館やプールも合体してね。そう考えれば、怪談で云われてることもすべて辻褄が合うんだよ」


 また、何を言い出すかと思えば……これまでで一番のトンデモ発言である。


「えっと……どこがどう辻褄が合うのかな?」


 俺は完全に呆気にとられ、脱力しながらも一応、彼女に問う。


「先ずベートーベンの額や階段の下にあったあの扉は、エリ高ロボに乗り込むための秘密の搭乗口なんだよ。あんなに厳重にカモフラージュがなされていたのがその証拠だね。それにプールの水が抜けたって話、あれはきっとロボット形態に変形する時のシークエンスだったに違いないよ。たぶん、生徒がプールにいるのに気付いて途中で変形をやめたんだろうけどね」


 なるほど……完璧なまでにトンデモな発想と理論展開だ……どこをどうすれば、そういう考え方になるものなのか、頼むから誰か教えてほしい。


「で、廊下を行進する兵隊の霊ってのは、おそらくエリ高ロボに乗り込もうとしてた秘密戦隊の隊員を偶然目撃したものなんだよ。そして、その隊員達が向かった先にある校長室の〝異次元に通じる鏡〟……その鏡の向こう側に存在する〝異次元〟と呼ばれるものこそが、実はエリ高ロボを操縦するためのコクピットだったんだよ!」


 説明されてもますます理解から遠のいて行く俺に、乙波はさらに常識を凌駕した超絶的結論を付け加えてくれる。


 ……ああ、そういえば、まだ調査に行ってなかったが、そんなのもあったんだったな。〝異次元に通じる校長室の鏡〟か。ま、今までのパターンからすると、その正体も大体の想像はつくが……って、ちょっと待てよ? まさか、今日はこれからそいつを調べに行くんじゃないだろうな!?


 もう一つ残っていたその怪談のことを思い出す俺だったが、それとともにものすごく嫌な予感が脳裏を過る。



「じゃ、そういうことで、今から校長室に潜入するよ?」


 次の瞬間、その嫌な予感通りの悪いお知らせを、キラキラと目を輝かせて乙波が俺に告げた……。

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