side B
俺たちは、ずーっと一緒じゃなきゃだめなんだ
はるは、俺とは違って弱くて馬鹿だから。俺がいなきゃいなきゃいけないんだと思う。多分、はるも同じようなこと考えてる。
世界が何も動いていないようなふりをしている。そんな中で、俺は突然生まれたんだ。
ずっと、白くて狭い部屋の中にいた。そこにはドアがあって、でもそこにはドアノブが付いていない、出来損ないのドアなんだ。だから俺はしょうがなくこの部屋の隅で小さくなって過ごしていた。誰の存在も知らないまんま、俺以外に息をしてるやつなんて、いないと思ってた。
でも、俺の夢の中には確かにあるんだ。誰かの記憶が。
そいつの記憶のなかは、怖い大人がいた。そして、同じくらいの背丈があるたくさんの人のなかで、この記憶の持ち主だけが拳を握って一人で俯いていた。目から水をこぼして、息をするのを怖がっていた。この記憶の持ち主は、弱虫なクソ野郎だなって思ったけど……
「こいつは、俺とおなじなんだ。ちがうけど、おんなじ。こいつも一人ぼっちなんだ」
それはあるは突然に。
俺がいつものように部屋の隅で小さく丸くなっていた時だった。
「……きみは、だれ?」
目の前に、初めて、ひとがいた。生まれて初めて、
誰かと出会った。
「えっ……と……」
俺はびっくりした。目の前にいたやつは、眉を八の字にして頭を傾けて俺のことを見てる。…………あ。
すぐにわかった。
お前は、俺の夢に出てくる……
あいつだ。
「お前、しってるぜ。お前、弱虫クソ野郎だろ」
「ひぇっ」
これが、俺とはるの出会い。
「あきくんは、なんでここからでてこないの」
「そんなの俺がしりてえわ。はるになら、俺をここから出せるのかな」
「む、無理だよ、ぼくには。だってわかんないもん」
「そうだよなあ。お前、だめだめだからなあ」
「ひどい…。あ、でも、毎日ここにくることは、きっとできるよ」
「そうか。お前が来てもつまんねえけどな。でも、寂しかったら来てもいいんだぜ。話くらいなら、聞いてやる」
「うん!ぼく、いっぱいくるよ。それで、あきくんの寂しいって思いを吹き飛ばしてあげる!」
「誰も寂しいなんて言ってねえよばか!!」
はるは、俺が口にしてないようなことをよく言い当てた。自分のお母さんとか、先生、友達の考えてる事を、ちゃんと汲み取って推測していた。こいつは案外馬鹿じゃねえかもしれないな、って、思ったりもした。
「……なあ、はる」
「なあに。あきくん」
「俺、このまんま、死ぬのかな。母ちゃんも知らずに、はるが求める“褒められる’’とか、“愛される’’も知らずに、一人で死ぬのかな」
「…………。
もし、あきくんがぼくの生きてる世界に遊びにこれたら、たくさん遊ぼう。お母さんとか、学校を紹介するよ。それで、二人でヒーローになって町を守ろう。
そしたら、きっと、みんな褒めてくれるし、愛してくれる」
「うん」
「お父さんも、あきくんの怖さに怒るのやめちゃうかもなあ」
「そうだったらいいんだけどな。
いつか、そんな日が、来たらいいんだけどな」
ジリリリリリリリリ…………
ドアノブのないドアは、今日も開かない
俺はまた、一人だ。
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